最新記事

中国企業

「テック界の無印良品」シャオミは何がすごいのか

2016年10月1日(土)15時31分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

REUTERS

<5年前は「丸パクリ」とバカにされた中国スマホメーカー、シャオミ(小米科技)が、圧倒的コストパフォーマンスの新機種「Mi5s」を発表した。この5年で飛躍的に成功できた3つの要因は何か。また、シャオミが変えた中国人の意識とは?> (写真:9月27日に新型スマートフォンを発表したシャオミの雷軍CEO)

 シャオミ(小米科技)をご存知だろうか?

 同社は2010年に設立された中国のスマートフォンメーカーだ。翌年に初のスマートフォン「Mi-One」をリリースするが、「中国にジョブズ丸パクリCEO出現!」(ギズモード・ジャパン、2011年8月22日付け記事の見出し)が最大の話題だった。製品発表会でプレゼンした雷軍CEOが、黒い上着とジーパンというファッションからしゃべり方までスティーブ・ジョブズを真似しすぎだとバカにされたのだ。

 そして約5年が過ぎた2016年9月27日、シャオミは新型スマートフォン「Mi5s」を発表した。雷軍のしゃべり方は5年前そのままだが、もはやバカにする声は聞こえない。この5年の間にシャオミは急成長を遂げ、一時は中国スマートフォン市場でナンバーワンのシェアを獲得し、評価額450億ドルという巨大企業に成長を遂げた。またウェアラブル機器市場で出荷台数世界一となったフィットネスバンド「Mi Band」を筆頭に、スマートテレビ、電動自転車、炊飯器、体重計、バックパック、コンセントボードなど無数の関連製品を販売している。

 何がこの5年間の飛躍的な成功をもたらしたのだろうか?

 第一に、圧倒的なコストパフォーマンスだ。最新の「Mi5s」の価格は1999元(約3万円)。中国でもいわゆるミドルレンジ機に分類される価格だが、ハイエンド機に匹敵する性能を持つ。製品数の絞り込み、大量調達による購買力の強さによってもたらされたコストパフォーマンスは圧倒的だ。

 今回の製品発表会では米クアルコムの最新SoC「スナップドラゴン821」、大型ディスプレイ版の「Mi5s Plus」についてはソニー製のデュアルカメラが搭載されたことが発表された。サプライヤーの名前を大々的にクローズアップする手法はシャオミがさきがけだ。「世界一流メーカーのパーツを組み合わせたのにこんなにお安いお値段です」と訴えかけているわけだ。

 その半面、「これがシャオミの独自技術だ!」といった宣伝は皆無。「他人様の部品を組み合わせただけでイノベーションがない」と怒る人もいそうだが、この手法が中国人の心に刺さったのは事実だ。

【参考記事】時速100キロで爆走する「老人用ハンドル型電動車椅子」

キャッチコピーは日本のラノベから

 第二に話題作り、ブランド構築のうまさだ。上述したジョブズ模倣プレゼンもそうだったが、ともかくネットでバズるためのツボを心得ている。主力商品はまずネット直営店で販売されるが、タイムセールの形式が取られており、あっという間に売り切れてしまう。飢餓商法の手法で期待を煽っているのだ。

 PM2.5問題が深刻なタイミングでの空気清浄機、日本爆買いツアーが話題になると炊飯器を販売。最近では「Mi Notebook Air」という、どこかで聞いたことのあるような名前のノートパソコンを発売して話題をかっさらった。

 また、キャッチコピーにはネットスラングが多用されている。創業以来のキャッチコピーは「為発焼為友」だが、中国人でもぱっと見では意味がわからない人もいる。それというのも「発焼」はもともとAV機器オタクを指すスラングだからだ。訳せば、「オタクのために生まれてきた会社」という意味になるだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの「演習」把握 トランプ氏と協

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中