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「参院選後」の野党、国会、有権者のあるべき姿とは?――吉田徹・北海道大学教授に聞く

2016年7月21日(木)16時04分
BLOGOS編集部

Yuriko Nakao-REUTERS

 今月10日に投開票された参議院選挙では、与党が過半数の議席を確保する結果となった。また、統一候補を擁立する野党側は、憲法改正に前向きな、いわゆる「改憲勢力」の3分の2議席確保阻止を選挙戦の焦点としたが、結果は各社の事前情勢と大きくは変わらなかった。こうした結果を受け、野党各党では代表の辞任や政界引退も相次いでいる。

 健全な議論のために、これからの野党はどうあるべきなのか。「野党共闘」から学ぶべき教訓は何なのか。『「野党」論――何のためにあるのか』(ちくま新書)を上梓したばかりの吉田徹・北海道大学法学研究科教授に話を聞いた。【大谷広太・編集部】

「フェアな競争と透明性」が今後の野党協力の鍵

――参院選が終わりました。与党に対抗した"野党共闘"については、結果として失敗だったという批判もある一方、福島と沖縄では現職閣僚を落選させるなど、一定の成果もあったとみる向きもあります。

 共闘に至る動き中で語られてきた「市民連合」「オリーブの木構想」なども含め、長期スパンで見て、"野党共闘"をどうご覧になっていますか?

吉田:野党4党(民進党、共産党、社民党、生活の党)が候補者を一本化した全選挙区32のうち、与党に競り勝ったのは11選挙区です。少なくみえるかもしれませんが、前回2013年の総選挙では候補者調整が進まず共倒れしたこともあって2選挙区でしか勝てなかったことを考えれば、共闘しなかったらもっと減っていたでしょう。共闘の結果、比例での票の積み増しがあったことも検証されているので、共闘は相対的には成功と評価できると思います。民進党に限っていえば、比例区での無党派層からの得票は自民と肩を並べました。

 ただ、今回は衆院選と違って政権選択選挙ではない参院選でしたので、野党同士が合意できる「ネガティブリスト」的な協力でした。2018年までに予想される衆議院総選挙を前に、選挙協力に終わらない、政権構想と体系的な政策パッケージがなければ、自公に対する批判票の受け皿とはなりえても、これに代わる選択肢とみなされるのは難しいでしょう。そのために残された時間は決して多くはありません。

 共産党への拒否感が強いこともあって、野党が協力を進めると、必ず「野合」という批判が与党やマスコミから寄せられます。有権者が不信感を持つのも当然です。そのため、私はイタリアやフランスで実践されているように、野党各党の代表が自らの政策を掲げて野党ブロック代表の座を争って戦い、これに一般有権者が投票するといった「公開予備選」を提唱しています。いずれであっても、フェアな競争と透明性があること。それが今後の野党協力の鍵になると考えます。

【参考記事】芸人もツッコめない? 巧みすぎる安倍流選挙大作戦

――アニメ問題・表現規制への取り組みを積極的に行い、約29万票を獲得しながらも落選した山田太郎氏のことが話題になっています。

 勢力が大きく2つに収斂していく中で、安全保障関連法案の採決における"附帯決議"を行った日本を元気にする会や、かつてのみんなの党など、"ワンイシュー"的な野党や、ユニークなポジショニングの野党が無くなる、もしくは存在感を失っていく状況も気になっています。こうした党がこれから勃興してくる可能性はあるのでしょうか。

吉田:難しいと思います。確かに、かつては「サラリーマン新党」やら「UFO党」やら、政治団体が参院選に出ていました。「同性愛者」だった東郷健が党首だった「雑民党」の政見放送なんかは、知的にも面白かったですしね。

 93年に非自民連立政権の首相となる細川護煕の日本新党も、参院選に打って出たのがきっかけです。ちなみにこの選挙ではニュースキャスターから転出した小池百合子さんがはじめて議員になっています。

 本来、参議院は衆議院と異なる民意を反映させるためのものですから、社会の多様性がそこにはありました。ただ選挙制度の変更があったり、供託金が引き上げられたりして、そういう多様性は随分となくなりました。三宅洋平さんの「選挙フェス」なんかもそうですが、こういう政治での「遊び」や「試み」が「ふざけ」としてしかみられなくなって、世間の目線が厳しくなっていることも影響しているのかもしれません。

 それゆえ、専門用語では「アドボカシーコアリション(唱道連合)」などといいますが、クラブの深夜営業を可能にした風営法改正が市民団体と超党派の議員との協力で実現したように、ワンイシューを軸にした市民社会、実務家、政治家のアドホックな連携がこれから大事になってくるのではないでしょうか。

――現在、「改憲勢力」という観点では与党側に括られてはいるものの、連立与党でも、野党共闘でもない「第三極」として、おおさか維新の会の存在が挙げられます。まだ地域政党のイメージが強いためでしょうか、「日本維新の会」に党名を戻すことも報じられていますが、国政の場で、与野党の間に立って影響力を発揮する可能性があると思います。

吉田:あまり注目されなかったものの、今回の参院選で特筆されるのは、おおさか維新の会の実質的な「躍進」でしょう。カリスマ的な橋下徹不在の中でも、選挙を戦えることを証明したことの意味は大きいと思います。

"大阪都構想"の住民投票などでは敗れたものの、これは大阪を中心に、賛否両論はあっても橋下行政が様々な結果を残してきたことの結果かもしれません。おおさか維新の会は、いわば「投資」から「収穫」の時期に入りつつあります。

 小泉改革以降、みんなの党の解体もあって、日本政治の舞台からは「新自由主義の極」を代表する政党はいなくなりましたが、それを期待する有権者は都市部に一定度存在します。ただ、これが全国的な支持を集めることは難しいでしょうから、与党ブロック、野党ブロックのいずれかと協力を進めていかないと、政権に近づくことは難しいかもしれません。

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