最新記事

2016米大統領選

盗用を絶対に認めない共和党の病的な言い訳の数々

2016年7月20日(水)16時40分
ライアン・ボート

Aaron P. Bernstein-REUTERS

<米共和党全国大会でメラニア・トランプが行った演説の一部はミシェル・オバマの演説から盗用だとして批判されている。トランプ陣営は間違いを認めず、誰もクビにせず、ひたすら疑惑を否定するが、その言い分は破廉恥レベル>

 オハイオ州クリーブランドで米共和党全国大会が始まった18日、新たなスキャンダルが幕を開けた。ドナルド・トランプの妻メラニアの演説に、2008年民主党全国大会のミシェル・オバマ大統領夫人の演説とほとんど同じ表現が何度も出てきたのだ。

【参考記事】トランプ夫人のスピーチ盗用疑惑も 異常事態続出の共和党大会

 これは盗用であり、不正行為だ。トランプ陣営の選対本部長を解任されてCNNのコメンテーターに転じてからもかつての雇い主を擁護し続けてきたコーリー・ルワンドウスキでさえ、「このスピーチ原稿を書いた者は、責任を取って解雇されるべきだ」と認めている。

【参考記事】トランプはなぜ宗教保守派のペンスを選んだのか

 しかし、トランプ陣営は誰ひとりクビにしていない。謝ってもいないし、過ちを認めてもいない。ただ言い訳を並べるだけだ。

 共和党の面々の多彩な言い訳を集めてみた。

盗作したのはほんの一部だから、盗作に当たらない

 まずは、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーから。

盗作ですよね? 「スピーチの93%がミシェル・オバマのスピーチと完全に異なるから盗作ではない」(クリスティー知事)
   


ヒラリーのせいだ!

 トランプの選挙参謀であるポール・マナフォートは、民主党のヒラリー・クリントンに矛先を向けようとした。「この問題には政治的なにおいがする」と彼は記者会見で語った。

「この問題を最初に公にし、メラニア・トランプのスピーチに何か不作法があったと言い出したのはクリントン陣営だ。我々の知る限り、ヒラリー・クリントンは女性に脅かされると、その女性を潰そうとする。今回の件はその新たな例なのだろう」

どちらかというと、キッド・ロックやエイコンからの盗作

 共和党全国委員会のチーフストラテジスト、ショーン・スパイサーは音楽配信サービス「スポティファイ」の自分の曲リストを見せながら、どちらかというとミシェル・オバマではなく、ミュージシャンたちから拝借したのだと盗作疑惑に反論した。

メラニアは、キッド・ロックやジョン・レジェンド、パブリック・エナミー、エイコン、ハウス・オブ・ペインなどのミュージシャンがよく使う表現を使っただけと、ショーン・スパイサーは主張した
   

 これに対するR&Bシンガー、ジョン・レジェンドの反応。

ここに含まれるのはお断りしたい
   


同じ価値観を共有していることの表れ

 元神経外科医で、今回の共和党大統領候補指名獲得レースにも出ていたベン・カーソンは記者たちに、ミシェルとメラニアのスピーチの類似点は、問題視されるものではなく、むしろ「喜ばしいことだ」と語った。

「もしメラニアのスピーチがミシェル・オバマのスピーチに似ていたのなら、私たち皆にとって幸せなこと。なぜなら、民主党であれ共和党であれ、同じ価値観を共有していることになるからだ」とカーソンは言い、こう補足した。「アメリカ人にとってとても大切な一般原則があり、その原則を表現する時はもちろん、似たような言葉を使うことになる」

ベンガジ事件と比較して...

 CNNのパネルディスカッションに出演していた「トランプ・サポーター」ジェフ・ロードは、2012年にリビアのアメリカ領事館が襲撃されて大使ら4人が殺害され、保守派が今も当時国務長官だったヒラリーの責任を追及している「ベンガジ事件」を持ち出して、盗作問題はささいなことと印象付けようとした。

「大局的な視点が必要だ。これはベンガジ事件ではない」と、ロード。

メラニアのほうがミシェルより上手かった

 ニュート・ギングリッチ元下院議長はメラニアのスピーチを褒め称え、盗作との批判に対して「異常だ」と発言。

「同じ言葉を使っていたとしても、メラニアのほうがミシェルよりずっと上手いスピーチだったと私は言いたい」と、ギングリッチは言う。「言葉を本当に素晴らしく伝えるとはどういうことか、ミシェルは映像を見たほうがいい」

批判をまるっきり無視

 19日の朝、トランプのシニアコミュニケーション顧問、ジェイソン・ミラーは声明を発表した。声明では、盗作批判に対して、その批判に触れることなく反論している。


「メラニアのスピーチライターのチームは、彼女の美しい演説を原稿にした際、彼女の人生に関するインスピレーションについてノートを取ったが、彼女自身の考えを反映していると思われる言葉を断片的に挿入した。メラニアの移民経験やアメリカ愛はスピーチの中で輝きを放ち、素晴らしい成功となった」

 トランプ陣営にとって、間違いを決して認めない戦略はおそらく正しい。共和党全国大会はまだ終わっていないし、新たな話題が提供され、盗作疑惑は忘却の彼方に押しやられるかもしれないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中