最新記事

スポーツ

ロシア陸上界から五輪出場を認められたクリシナに「裏切り者」とバッシングの嵐

2016年7月12日(火)16時40分
デイミアン・シャルコフ

Phil Noble-REUTERS

<国家ぐるみの悪質なドーピング疑惑でリオデジャネイロ五輪への出場が危ぶまれているロシアの陸上界でただ一人、五輪出場資格を認められた女子走り幅跳びのクール・ビューティー、ダリア・クリシナ(25)。彼女は自分のことしか考えない裏切り者なのか> (写真は、2013年のヨーロッパ室内陸上選手権で優勝し、ロシア国旗を掲げるクリシナ)

 リオデジャネイロ五輪への出場をただ一人認められたロシア人陸上競技選手が、ネットで「裏切り者」と罵るなどの攻撃を受けている。

 ロシアの陸上競技選手たちは、国家ぐるみの組織的ドーピング疑惑で、8月にブラジルで開催されるリオデジャネイロ五輪への参加が危ぶまれている。ただ一人、アメリカを拠点に練習している女子走り幅跳びのダリア・クリシナ選手(25)だけが先週末、国際陸上競技連盟(IAAF)から出場資格を認められた。

beauty2.jpg
本人のインスタグラムより

 だが、クリシナがIAAFとサポーターに対する感謝の気持ちをソーシャルメディアに投稿すると、ロシアでは批判の嵐が巻き起った。出場できそうにないロシアのほかの陸上選手たちに対する配慮がなさすぎると思ったロシア人も多い。

 クリシナはロシア代表として五輪に出場できるわけではなく、個人資格で参加する。クリシナのフェイスブックページは、彼女が母国と仲間に背を向けたと非難するコメントで溢れ返った。

【参考記事】出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗

 あるユーザーは、「ロシア人はおまえを応援しない」と言い、別のユーザーは、アメリカが拠点のクリシナ選手に「国旗を星条旗に変えろ」と言い放った。

 クリシナ選手本人は、ロシアの国営メディアに対し、自分を裏切り者だとは思っておらず、ロシア人陸上選手たちの出場停止処分という決定が覆されることを願っていると語っている。

イシンバエワのコーチは逆ギレ?

 しかし、ロシアで最も多くのメダルを獲得している女子棒高跳びの現役選手、エレーナ・イシンバエワのコーチは、ロシアの国営スポーツ専門チャンネル「マッチTV」の取材に応えて、ほかのロシア人選手たちを出場停止処分にしたIAAFにクリシナが謝意を表したことを「恥さらし」と呼んだ。

 同コーチは「非常に不愉快だ」と述べている。「ロシアは、彼女が生まれ、優れたコーチについて、競技生活のスタートを切った国だ。それなのに彼女は、コーチを変えて、アメリカに渡った」

【参考記事】妖精シャラポワは帰ってくる

 政党「ロシアの共産主義者」党首であるマクシム・スライキンは、モスクワのラジオ局「ガバリート・モスクバ」に対し、クリシナ選手はロシア選手たちとの同胞意識がないのだから、「ウクライナ代表として大会に参加すればいい」と語った。同政党は、ウクライナの親欧米政府を徹底的に批判している。

 いっぽう、ロシア選手団を指導するコーチのセルゲイ・エピシンは、露誌「ソベセドニク」に、クリシナが裏切り者だとは思わないと語った。「IAAFが提示した条件下で競技することに本人が同意したのであれば、参加するのは当然の権利だ」

 クリシナ選手には激励のメッセージも寄せられている。ロシア上院議員のタチアナ・レベデワも彼女の決断を支持しており、ロシアのニュースサイト「ライフ」に対して、自分はクリシナ選手に共感できると語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中