最新記事

銃乱射

銃乱射に便乗するトランプはテロリストの思うつぼ

2016年6月15日(水)19時30分
デービッド・ロスコフ(FPグループCEO)

 世界は、こんな男を大統領に仰ごうとしているアメリカを醜いと思っていることだろう。

 今年の大統領選は、9.11同時テロから4回目の大統領選になる。この間のどの選挙も、9.11の強い影響を受けてきた。最初はジョージ・W・ブッシュのテロに対する反応の是非を問う国民投票であり、ブッシュの再選は対テロ戦争への信任投票だった。2008年の第2回と2012年の第3回は、対テロ戦争が招いた中東の不安定化についての答えを求める選挙だった。バラク・オバマはブッシュのやり方を批判したかもしれないが、オバマもアメリカ人のテロ中心の安全保障観に触れなかったし触ろうともしなかった。

【参考記事】誤算だらけの中東介入が反欧米テロを生む

 私は著書『National Insecurity』のなかで、ブッシュ政権とオバマ政権がこうした課題をどう扱ったかを示し、この時代を「恐怖の時代」と名付けた。将来の世代は両政権の外交政策をテロに反応することだったと評することだろう。ブッシュは9.11に反応したし、オバマはブッシュの9.11に対する反応に反応した。テロの脅威が生存を脅かすほどのものでないことは明らかだったが、この時期、それを口に出して言える政治家は皆無だった。

恐怖の時代は終わらない

 オバマ政権の任期中に台頭したISISは、アルカイダよりさらに不気味な脅威だった。テロリストとしては初めて自らの領土を欲し、人材も外から採用した。望めばどこでも誰でもISISの一員になることができる。組織は分散しており、階層もない。疎外され、怒りをかこち、ISISの名の下でテロを行うことも辞さない者たちを世界から迎え入れることで、ISISはさらに大きく恐ろしく見えた。

 著書の最終章で、私は2016年の大統領選こそ変わって欲しいと願いを書いた。テロよりも所得格差から新しい大国の台頭までアメリカ人の生活を左右する真の課題に目を向け、恐怖の時代が終わることを期待した。

 トランプの主張を聞くと、願いはとてもかないそうにない。出馬当初から、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナーディーノでISISの支持者とみられる容疑者による銃乱射事件が起こった後はとくに、アメリカ人のテロに対する不安やイスラムに対する不安を煽り、アメリカ人が痛ましいほどに無知な未知の文化についての恐怖を煽った。今年の大統領選の中心課題もまたテロになることは明らかだ。再び多くのアメリカ人が、真にテロを打ち負かす唯一の方法は怯えないこと、恐怖を脇に置くこと、そして強さを磨くことだという事実を無視するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 10
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中