最新記事

北朝鮮

「LINEを使う人間はスパイ」金正恩体制が宣言

2016年6月7日(火)16時25分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

Jacky Chen-REUTERS

<200万人以上の携帯電話ユーザーがいる北朝鮮で、「カカオトークやLINEを使用している者は逮捕せよ」との指令が出ている。当局が警戒するのは中国キャリアの違法の携帯電話。一方、外国人による海外とのデータ通信は可能らしいが......> (写真は中朝国境で携帯電話を使う北朝鮮兵)

 北朝鮮の金正恩体制が、LINEやカカオトークなどのコミュニケーションアプリに対する警戒を強めている。デイリーNKの両江道(リャンガンド)の内部情報筋によると、「つい最近『カカオトーク、LINEを使用している住民を見つけ出し、反逆者として逮捕せよ』との、アプリを名指しした指示が降りてきた」という。

 使用していた事実が当局に知られたら、スパイ容疑で銃殺されるか、あるいは政治犯収容所に送られるなどの厳罰を受ける可能性があるということだ。

日本の「凄腕スパイ」

 北朝鮮には、すでに200万人以上の携帯電話のユーザーがいる。しかしその大多数は、当局の厳しい監視を受ける公認端末のユーザーだ。当局が警戒するのは主に、違法に持ち込まれている中国キャリアの携帯電話だ。昨年8月にはこれを用いて、韓国へ定期的に国際電話をかけていた女性3人が銃殺される出来事もあった。

(参考記事:北朝鮮当局、韓国と「携帯通話」した女性3人を「見せしめ」で処刑

 そうした携帯電話の中には当然、スマホも含まれている。スマホならば、LINEやカカオトークなどのアプリをダウンロードでき、それらを使えば文書や写真をはじめ様々なデータをやり取りできる。

 ちなみに、日本ではまったく見過ごされているのだが、「北朝鮮でも外国人は、合法的に海外とデータ通信ができる」という事実が存在する。昨年6月11日に起きた平壌の高麗ホテルの火災後に、北朝鮮では一時的に外国人向けインターネット・サービスが遮断されたが、これは外国人が先を争って火災現場の写真をネットで外国に送信しようとしたためだとされている。

 筆者は昨年、この事実を知り、ひっくり返らんばかりに驚いてしまった。日本人拉致問題をはじめとする対北情報戦を行う上で、現地情報を素早く入手するためにも、この手を使わない手はないではないか。

 もっとも、手段はあってもそれを使いこなす準備がなければ、まったく意味はない。そういえば昨年、複数の日本人が中国の公安から「スパイ容疑」を問われ、拘束された件はどうなっているのか。日本当局はダンマリを決め込むばかりで、まったく何も措置を講じていないようだ。

 かつては日本にも、世界に名を知られた凄腕スパイ(公安調査官)がいたが、その人物も組織の論理の中で飼い殺しにされた。

(参考記事:【対北情報戦の内幕】あるエリート公安調査官の栄光と挫折

 日本人拉致問題も核開発問題も、本質的な解決を得るために残された時間は多くはない。日本の関係当局が、あらゆる手段の総動員に動くことを望む。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏成長率、第1四半期は予想上回る伸び 景気後

ビジネス

インタビュー:29日のドル/円急落、為替介入した可

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 和解への

ビジネス

ECB、インフレ鈍化続けば6月に利下げ開始を=スペ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中