最新記事

北朝鮮

挑発行為に隠された北朝鮮の本音

2016年4月13日(水)20時01分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)

 共産主義国家らしい威勢のいい表現だが、そこには金がアメリカとの交渉に前向きだというメッセージが込められている。だが、オバマ政権はそのサインを見落としたのではないかと、一部の専門家は考えている。

【参考記事】北朝鮮核実験で槍玉に挙げられるオバマの「弱腰」外交

 実際、オバマ政権の従来の北朝鮮政策は失敗だったと考える専門家は増える一方だ。誤った情報に基づき、北朝鮮の現体制は脆弱で長続きしないと考え、中国は北朝鮮に対して甚大な影響力があり、金はマンガに出てくる悪者程度の存在と考えてきたというのだ。

 こうした専門家は、アメリカは北朝鮮の新提案を受け入れ、交渉を再開するべきだと考えている。そうすれば、少なくとも北朝鮮の核開発のスピードを遅らせ、朝鮮半島の緊張を取り除く端緒が開ける。うまくいけば、オバマはイランとの核合意や、キューバやミャンマー(ビルマ)との国交正常化のような歴史に残る功績をもう1つ増やせるかもしれない(ただしオバマ政権は新提案についてノーコメントを貫いている)。

 現在の政策に固執すれば、北朝鮮は2020年までに核弾頭の備蓄を100発まで増やす可能性があると、専門家は警告する。元CIA工作員で北朝鮮を舞台とした小説を多数執筆しているジェームズ・チャーチ(ペンネーム)は、「(核)実験のたびに、北朝鮮は新しいことを学んでいる」と語る。

 北朝鮮は、09年のオバマの大統領就任時には、既に核実験を行い、アメリカとの核合意を2度ほごにしていた。それでもオバマは、就任早々北朝鮮に働き掛けた。それに対する北朝鮮の答えは2度目の核実験だった。

 以来、オバマはジョージ・W・ブッシュ前大統領と同じように、北朝鮮に対して強硬な態度を取るようになった。核の放棄に応じない限り直接交渉はしないという姿勢を堅持し、経済制裁を強化したのだ。北朝鮮は貧しくて孤立しているから、いずれ現体制が崩壊するか、非核化に応じると考えたのだ。

過去最大の米韓合同演習

 だが昨年、イランと歴史的な核合意を結ぶと、オバマは北朝鮮とも同じような合意を結びたいと考えるようになった。北朝鮮側が先に非核化に応じない限り、直接交渉はしないという条件も引っ込めた。

 ところがこのときは、北朝鮮側が交渉の議題は平和協定に限定することにこだわったため、オバマ政権の歩み寄りは再び頓挫した。そして北朝鮮が水爆実験に踏み切ると、アメリカと国連安全保障理事会は、新たな制裁を科すことを決めた。

 その一方で、オバマ政権はこの7年間、韓国との防衛協力を一貫して維持してきた。合同軍事演習も毎年欠かさず行っている。特に今年は、韓国軍30万人、米軍1万7000人が参加する過去最大の演習となった(演習は今月末まで続く予定)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税の影響を評価するのは時期尚早=FRB金融政策報

ビジネス

米株式ファンドから大幅に資金流出 中東緊迫化と関税

ビジネス

フィラデルフィア連銀製造業指数、3カ月連続マイナス

ワールド

IAEA事務局長「最大限の自制を」、イラン核施設へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    「巨大キノコ雲」が空を覆う瞬間...レウォトビ火山の…
  • 9
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中