最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

予備選で見えてきた「部族化」するアメリカ社会

2016年4月11日(月)19時15分
渡辺由佳里(エッセイスト)

<サンダース部族>
収入格差がある現状に反発し、古い政治制度を、急速に、根こそぎ変えるべきだと考える理想主義者。30歳以下の若者。社会活動家。白人が多い地域の労働者階級(移民やイスラム教徒への差別心がないところがトランプ支持者とは違う)。労働組合。民主党内の左寄り勢力。民主党員ではない無所属。

<クリントン部族>
フェミニスト、黒人、イスラム教徒、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)、その他のマイノリティ。年配の女性。銃規制推進派。都市に住む高学歴、高収入、高年齢層のリベラル。長年の民主党員。

 部族間の争いの問題は、先のルイスによると、政策やイデオロギーよりも「アイデンティティ」のほうが重要になることだ。そして、対立する部族間で敵意が強まることも。

 ルイスは、トランプの台頭についてこう説明する。「(ライバルとの戦いが多い)部族では、リーダーを選ぶときの基準は、経験や知恵ではなく力だ。現在私たちが目撃していることの大部分は、基本的にマッチョさ(男らしさ)という下劣なものなのだ。つまり、『あいつらは俺たちをやっつけようと企んでいる。だから、その前に一番タフな奴にやっつけてもらわなくては』という考え方だ。トランプの支持者は、政治の中枢にいるなよなよした候補者の中で、トランプだけを『アルファ(群れを支配する強いオス)』とみなす。それが支持者の主要な論拠なのだ」

 部族間の争いが際立ったのが、先月サンダースの支持者がシカゴでのトランプのラリーを閉鎖した出来事 だった。何時間も並んだのに、抗議グループのせいでせっかくのラリーが中止になったことに憤慨するトランプの支持者と、抗議活動のために会場に潜入したグループの間で衝突が起こり、怪我人や逮捕者が出た。

 発端は、サンダース支持者の社会運動家ジャマル・グリーンが、フェイスブックで「みんな、このイベントのチケットを確保するんだ。潜入して#Shutitdown(閉鎖)するぞ!」 と呼びかけたのがきっかけと言われている。サンダースを支持する草の根政治運動団体「ムーブオン」も、抗議運動グループの要求に応えてプラカード作りや抗議の参加者集めを援助したことを公表している

 問題が多い2大政党制の崩壊を歓迎する意見もある。だが、部族化の問題は、アイデンティティが異なる者同士が、このように自動的に「敵」になってしまうことだ。自分とは異なる「アメリカ像」を持つ者も、同様にアメリカ人であり、異なる「アメリカ像」を持つ権利があるのに、部族間の争いがエスカレートすると、自分の部族以外のアイデンティティを持つアメリカ人が許せなくなってしまう。

 この、危険なアメリカ社会の「部族化」を止められる大統領が、今の候補者の中から生まれるのだろうか?

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

≪筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 6
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中