最新記事

中東

難民に苦痛を強いるレバノンの本音

2016年4月11日(月)18時00分
リチャード・ホール

 永住可能な住居の建設を認めないというルールは、いかなる難民支援団体にも適用されている。地元の民間団体でも国際NGOでも、国連機関でも同じだ。

 シリア内戦以前からレバノンで活動しているデンマーク難民評議会は13年、「ボックス・シェルター」を考案した。基礎にコンクリート、壁には木材を使用したもので、各地で増加中のベニア板やシートの小屋よりも少しは暮らしやすいと思われる簡易シェルターだ。

 しかしレバノン政府は、難民に定住への道を開くという理由でその使用を禁じてしまった。

【参考記事】知っておくべき難民の現実

 この規則に少しでも違反すると当局が嗅ぎつけてくる。例えば3年半前に家族とシリアのホムスからやって来た女性ファティマ(67)のケースだ。「(嵐の際に)小屋に水が入ってこないよう、外側にコンクリートのブロックを置いた。でも去年の洪水では水がブロックを越えて流れ込んだ」と彼女は言う。

 最初に置いたブロックに新たなブロックを積むと、兵士が来て「そんなに石を積んでいいと誰が言った?」と言われ、やむなく彼女はブロックを取り除いた。今は、雨が降ると砂利を詰めた袋を積んで、どうにか水の浸入を防いでいるという。 

 もっとましなシェルターを提供する試みもあった。13年には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がスウェーデンの大手家具メーカー、イケアと協力し、居心地がよくて見た目も惨めではなく、どんな天候からも難民を守れるシェルターを考案した。運搬も簡単で4時間ほどで組み立てられ、屋根にはソーラーパネルが付いていた。

 イケア・ファウンデーションが資金を出し、ベター・シェルターという団体がデザインした。「テントでは1年ほどしか持たないし、雪が降ると困る。長持ちするシェルターを提供したかった」とベター・シェルターのデザインチームを率いるジョハン・カールソンは言う。

 レバノンの冬は厳しい。昨年の冬、ベカー平原では気温が氷点下15度まで下がった。UNHCRのシェルターなら、暑さだけでなく寒さにも耐えられる。ドアには鍵も付いているので女性も安全に暮らせるはずだ。

難民が定住しては困る

 14年2月、レバノン政府は北部のハルバで新しいシェルターの試用を許可した。しかし、プロジェクト開始後すぐに地元の人たちから抗議の声が上がった。「地元のNGOと協力してプロジェクトを進めたが、地元民からNGOに苦情が来た」とUNHCRの広報担当のデーナ・スレイマンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、製薬17社に書簡 処方薬価格引き下げ迫

ワールド

トランプ氏、カナダ首相から連絡も「協議せず」 関税

ビジネス

アマゾン、クラウドコンピューティング事業が競合に見

ビジネス

アップル、4─6月期業績予想上回る iPhone売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中