最新記事

タックスヘイブン

パナマ文書、中国の現状を解剖する

2016年4月7日(木)20時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 ただ、文革時代、父親の習仲勲が投獄されていた間、姉が献身的に一家の面倒を見て苦労していたのを知っているので、習近平は、少しくらいは姉に楽をさせてやろうと思っていたという。だから全ての会社を手放してくれとは言わずに、1社だけ残して、と譲歩したと言われている。

 ここまでの事実は、筆者は以前から何度もさまざまな出版物の中で書いてきた。

 今般、パナマ文書で発見されたトウ家貴のオフショア会社の一つは、「阿波羅新聞網」によれば、2012年11月に習近平が中共中央総書記に選ばれたときから、休眠状態にあるという。それも実はトウ家貴の才覚により6年間もかけて成長させてきた企業で、手を引かなければ莫大な利益を手にすることができたのに、習近平が総書記などになったために、閉鎖させてしまった。そのためトウ家貴は莫大な損失を被ることになり、「習近平の犠牲になってしまった」と書いている。

 こうなると、少なくとも習近平に関しては、この件に対して果たして責任があるのか否か、判定が難しい。

「パナマ文書に習近平の名が!」というのは、耳目を引く、いいキャッチフレーズになりはするだろうが、自分の親戚が自分と関係ない場所と時期に、何か起こしたことに対して、著名人は責任を負わなければならないのだろうか?

 その著名人が国家指導者であった場合、自分が無名の時に自分と関係なくリッチになった男と自分の姉が結婚し、その結果、姉も裕福になったという情況において、国家指導者に責任があると言えるのだろうか。

 自分の子供(特に未成年)が何か事件を起こしたという場合は、親が責任を取ることもあろうが、この場合は相当しない。

 長くなり過ぎたので、他のケースに関しては、またの機会に譲る。

 なお暴露された1150万件のうち、中国人が世界で最多であるとのことだ。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ザンビア、デフォルトから脱却へ ユーロ債保有者が再

ビジネス

S&P500年末目標、UBSが5600に引き上げ 

ワールド

中国国家主席、雇用促進策の策定指示 「若者を最優先

ワールド

ウクライナ大統領、バイデン氏に和平会議参加呼びかけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 7

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    コンテナ船の衝突と橋の崩落から2カ月、米ボルティモ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中