最新記事

追悼

独裁者のお気に入りだったザハ・ハディド

2016年4月1日(金)16時44分
アレクサンダー・ナザリアン

webw160401-03.jpg
カタールのサッカー場「アル・ワクラ」の完成模型 Fadi Al-Assaad-REUTERS

 とりわけ問題視されているのが2022年のサッカーワールドカップ(W杯)開催地、カタールの「アル・ワクラ・スタジアム」だ。カタール政府が建設作業員を奴隷のように扱っていたことが徐々に明らかになると、ハディドは自分を追及する人々に対して激しく反発した。他のW杯関連施設の建設工事で、1000人近くの労働者が死亡していた事実についてハディドは、「私は労働者とは無関係。問題があるとすれば、それは政府が対処すべきことだ。事態が改善されることを望んでいる」と語った。

 事実関係ではハディドの言う通りかもしれない。しかし「アル・ワクラ」の肩を持ち過ぎたことで、自分自身の評判を貶めてしまった。

天才も政治と無関係に創作はできない

 アーティストが独裁者や暴君のために働くのは今に始まったことではない。時には嫌々ながら、時には自ら進んで。小説家ガートルード・スタインは、ナチスドイツに協力したフランスのビシー政権と仲が良かった。2012年にノーベル文学賞を受賞した中国の作家・莫言(モー・イエン)は、「共産党の操り人形」とも批判されている。スターリン政権下の旧ソ連、人種差別が横行するアメリカ南部でも、何か言えたのに言わなかったアーティストは多い。仕事に専念したかったのだろうが、作品には傷が残ってしまった。
 
 称賛と批判が交錯するハディドへの評価は、天才であっても抽象画のような清らかな世界で創作をすることはできない現実を物語る。誰が建築を手がけているかと同様、どんな場所で建てているかも、無視することはできない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イラン産石油「影の船団」に制裁発動

ビジネス

最新のインフレ指標は良好、持続的改善が必要=米シカ

ワールド

ウクライナ巡る協議「何かに近づいている」とトランプ

ビジネス

ECB総裁、ウクライナ向け「賠償ローン」でEUの合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中