最新記事

セキュリティ

テロリストに完敗したベルギー治安当局

どこでも警戒厳重な空港が狙われたのは、テロリストによほど無防備と思われた証拠だ

2016年3月23日(水)17時33分
ジャック・ムーア

逃亡した容疑者はどこに 爆破テロの翌日、ザベンテム国際空港近くに出動したベルギー軍兵士 Charles Platiau-REUTERS

 ベルギーの首都ブリュッセルの空港と地下鉄で22日に起きた同時爆発テロで、少なくとも30人が死亡した。専門家は、ベルギーの治安当局によるイスラム過激派組織に対するテロ対策が後手にまわり、対策にあたる要員が不足している問題が露呈したと指摘している。

 ザベンテム国際空港で2回爆発が起き、空港での爆発から約1時間後には朝のラッシュアワーを迎えた地下鉄マルベール駅で爆発が起きた。ベルギーのミシェル首相は爆発を「目に見えない、暴力的で卑劣なテロ」だと述べた。テロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)が犯行声明を発表した。

【写真リポート】ブリュッセルで連続自爆テロ、容疑者1人が逃亡中

 ブリュッセルの交通機関を狙ったテロは、昨年11月に起きたパリ同時多発テロ実行犯のうち唯一の生存者であり指名手配中だったサラ・アブデスラム容疑者を、4カ月にわたる逃亡の末ベルギーの捜査当局が拘束したわずか4日後に起きた。

ベルギー治安当局の失態

 同容疑者が逮捕された直後のブリュッセルで起きた今回のテロは、EU(欧州連合)の中心地でさえテロ攻撃の標的にできるほど、ISISが広範なネットワークを形成していることを浮き彫りにした。多数の死傷者を出した22日のテロは、ベルギーの治安当局による国内のテロ対策が不十分で、人口比で欧州でも突出するイスラム過激派の脅威に対応できていなかったことの結果だと指摘する専門家もいる。

 イスラム過激派の事情に詳しく関連著書(The New Threat From Islamic Militancy) もあるイギリス人ジャーナリストのジェイソン・バークは、「パリ同時多発テロ以来、ベルギー当局がテロ対策に対応しきれていないことは誰の目にも明らかだった」と話す。現にベルギー当局は、パリのテロ直後から1週間にもわたり首都ブリュッセルを閉鎖し、テロ実行犯のサラ・アブデスラム容疑者の拘束には4カ月もの期間を要した。そんなさなかに今回のテロ。「ベルギー当局はアブデスラム容疑者を支持するISISのネットワーク、あるいはベルギー国内に潜む新たなイスラム過激派の包囲網を把握し、一掃することに失敗した」

【参考記事】増殖し複雑化し続ける対テロ戦争の敵

 イギリスに本部を置き、中東における外国人戦闘員の動向を監視してきた過激派国際社会研究センター(ICSR)が昨年1月に公表したデータによると、ベルギーはシリアやイラクのイスラム過激派グループの戦闘に加わる外国人戦闘員の人口に対する割合が、ヨーロッパで最も高い(国民100万人当たり40人、フランスは18人)。ベルギーは他のヨーロッパ諸国に比べて人口密度も高く、隠れやすい。

【参考記事】ベルギー「テロリストの温床」の街

 ベルギーの治安当局は対策能力そのものが劣っているのではなく、最大の問題は要員不足だ、という意見もある。人手不足のために、地元ベルギー出身者やシリアで過激派に加わった後に帰国したイスラム過激派を十分に取り締まれずにいるとバークは言う。

【参考記事】「シリア帰り」の若者が欧州を脅かす

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議は「生産的」、ウィットコフ米特使が評

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る

ワールド

マクロン氏「プーチン氏と対話必要」、用意あるとロ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中