最新記事

米韓合同軍事演習

中国は座視しない!――朝鮮半島問題で王毅外相

2016年3月9日(水)17時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 ということは「中国は座視しない」のは、「もし戦争になったら全てアメリカのせいだ」から、ということになる。北朝鮮の「労働新聞」の言葉を借りてはいるが、中国もまた米韓合同軍事演習を、韓国にTHAADを配備すると同じくらいに、「中国に対する挑戦でもある」とみなしていることになろう。

【参考記事】中国、アメリカに踊らされたか?――制裁決議とTHAAD配備との駆け引き

 中国は、アメリカとともに国連安保理常任理事国として対北朝鮮制裁決議に賛同しているために、なかなかアメリカに対して米韓合同軍事演習をやめろとは言いにくい立場にある。アメリカが、これは北朝鮮に対する牽制以外の何ものでもないと弁護するのを知っているからだ。中国が米韓を批難すれば、アメリカから「やっぱり中国は北朝鮮の味方をする気か」と言い返されるのを中国は知っている。

 冒頭にご紹介した王毅外相の発言を注意深くご覧いただくと、そこには「アメリカ」という言葉はなく、「関係各方面(各方面の関係者)」という言葉を慎重に選んでいることに、お気づきになるだろう。

 しかし、万一にも本当に朝鮮半島が戦火に見舞われることがあったら、中国は中朝同盟に沿って北朝鮮側に付かなければならないことになる。

 それだけは「ごめんだ!」と中国は思っている。アメリカとは戦いたくない。

 それならいっそのこと「自ら北朝鮮に攻め込み中朝戦争を起こした方がましだ」とさえ思っているくらいだ。

 その中国のジレンマが、王毅外相の「中国は絶対に座視しない」という言葉として現れたと解釈すべきだろう。王毅外相が記者会見場で「アメリカ」という言葉を使わなかった細心の配慮は逆に、そのジレンマがいかに激しいものであるかを物語っていると、筆者には見える。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中