最新記事

映画

欲と機転で金融危機をぶっ飛ばせ

08年の住宅バブル崩壊を予見した男たちを描く『マネー・ショート』は勉強にもなる金融コメディー

2016年3月4日(金)16時00分
デーナ・スティーブンズ

金融ゲーム バウム(中央左)は自らの成功の陰で国が経済危機を迎えることに悩む © 2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 俺をただの猟犬と思って、ちゃんと説明してくれ!

 08年秋の金融危機の背景を描いた映画『マージン・コール』(11年)で、途方に暮れた投資銀行家が発した悲鳴だ。金融市場の仕組みについては猟犬並みの知識もない観客は、もちろん大笑いした。

 しかし同じテーマの新作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ監督は、もっと人間的にこの危機を扱う。アメリカの住宅バブル崩壊から金融危機が連鎖的に世界に広がったプロセスを解き明かし、かつ笑わせてくれる。

【参考記事】ウォール街を出しぬいた4人の男たちの実話

 観客の知性を重んじる姿勢が魅力的なこの映画は、マイケル・ルイスのノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(邦訳・文春文庫)が原作。08年の金融危機で自分たちの金に何が起きたのかをアメリカ人は理解できるし、理解するのが道徳上の義務でもあるという前提に立って、話は進む。

「道徳上の義務」と「笑い」は大の仲良しとは言えないが、おバカなコメディー『俺たちニュースキャスター』で知られるマッケイは正義の怒りと爆笑を絶妙にミックスした。

 登場人物の1人ジャレッド・ベネット(ライアン・ゴズリング)は、国や企業がデフォルト(債務不履行)に陥った場合に巨額の保険金を受け取れる金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」を、ジェンガの積み木を使って顧客に説明する。からくりが分かるにつれ、観客の怒りは募る。金融機関はろくに審査もせず、返済能力の低い「サブプライム層」に高金利の住宅担保ローンを貸し付け、それを証券化し、優良な金融商品と称して無邪気な投資家に売り付けていた。

【参考記事】サブプライムショックで世界同時株安

『マネー・ショート』ではこれを詐欺と見抜いた数人の男たちが住宅市場の破綻を予見し、金融機関とCDSの契約を結んで「大逆転」をもくろむ。その複雑な経緯が、猟犬どころかプードル程度の知識しかない筆者のような人間にも分かるほど明快に描かれている。

狂乱の金融界の正義は

 冒頭、ドイツ銀行に勤めるベネットがナレーションで主な登場人物を紹介する。本人も認めるとおり、ベネットは正義の味方どころかデフォルトを荒稼ぎの好機と見なす遊び人だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ政権、肥満治療薬を試験的に公的医療保険の対

ビジネス

パウエル氏利下げ拒否なら理事会が主導権を、トランプ

ビジネス

ダイムラー・トラック、米関税で数億ユーロの損失計上

ワールド

カンボジア、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中