最新記事

医療

ジカ熱報道の「数字」を疑え

2016年2月12日(金)17時30分
ウィル・カレス

ジカウイルス以外の要因も

 新生児の頭蓋骨が通常よりも小さくなる要因は数多くある。バーコビッチ教授は、ジカウイルスだけではなく先天性だったり栄養不良など多くの理由が考えられると指摘する。

誤解を招きやすい病名

「小頭症」という言葉は、あまりにも単純だ。サンパウロで胎児医学を専門とするトーマス・ゴロップ医師は、小頭症は単純に「小さな頭」という意味で、いま問題になっている出生異常はもっと複雑な症状だと言う。

【参考記事】抗酸化物質は癌に逆効果?

 ゴロップは「ジカ症候群(ジカウイルスが原因とみられる新生児の一連の症状)」と言うほうが正確だろうと指摘。新生児の頭蓋が小さいというだけではなく、もっとずっと複雑な症状であり、1つの症状とジカウイルスを単純に結び付けても何の役にも立たないと語る。「残念ながら小頭症という言葉が一般化してしまった。それが多くの混乱を呼んでいる」


 さまざまな情報を検証してきたが、ジカウイルスと出生異常の関連性について、専門家の間から根拠のある懸念の声が上がっているのも確かだ。ここに記した指摘は、医師たちが現場で認識している事実を否定するものではない。

 ゴロップは、ブラジル北東部にいる同僚から深刻な懸念の声を聞いたと言う。彼は、多くの診療所が今も、新生児の出生異常について保健省に正確な数字を報告していない可能性を疑っている。ジカウイルスの影響で、何らかの問題を抱えて生まれてくる子の数は、私たちが把握しているよりもずっと多いかもしれない。

 ただ、いまブラジルで起こっていることが何であれ、1つ確かなことがある。この問題についてはまだ正確なデータが十分にそろっておらず、世界はパニックに陥るべきではない、ということだ。

From GlobalPost.com特約

[2016年2月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ

ワールド

北朝鮮パネルの代替措置、来月までに開始したい=米国

ビジネス

個人株主満足度、自動車はトヨタ 銀行は三井住友が首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中