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北朝鮮の医師2人が「出稼ぎ先」のカンボジアで謎の死

推定5万人が外貨獲得のため国外で労働しているが、プノンペンで起こったアルコール中毒死事件は「ただの事故」で終わるのか

2016年1月6日(水)13時44分
ルーシー・ウェストコット

遠い異国の地で 金正恩政権のためにカンボジアで働いていたと思われる北朝鮮の医師2人がミステリアスな死を遂げた(プノンペンの街並み) Chor Sokunthea-REUTERS

 カンボジアで起こったミステリー。北朝鮮から来た医師2人が、謎めいた状況でアルコール中毒により死亡した。

 英字紙プノンペン・ポストによると、1月2日、アン・ヒョンチャン(56)、リ・ムンチョル(50)という名の2人の医師が「それぞれの妻や、他にも10人の北朝鮮人と飲食を共にした後で」死亡。検視を行ったところ、2人とも死因は心臓発作だったが、医師の妻らは警察に、カクテルを何杯か飲んだ後で高熱になった2人に「アルコールの影響を弱める薬」を与えたと話している。

 死亡した場所は2人とも、カンボジアの首都プノンペンのトゥール・コーク地区にある自宅兼診療所だった。

 彼らがどんな経緯でカンボジアで働くことになったか、プノンペン・ポストは詳細を伝えていないが、おそらくは国のために外貨を稼ぐ出稼ぎ労働者だ。推定5万人もの北朝鮮国民が、外国で金正恩(キム・ジョンウン)政権のために働き、年間12億~23億ドルを稼いでいるとされる。

 昨年10月、国連のマルズキ・ダルスマン北朝鮮人権特別報告官が会見し、北朝鮮が外貨獲得のため、自国民を「報じられるところによれば強制労働に相当する環境下で」働かせていると非難していた(北朝鮮は否定)。

 今回の怪事件だが、地元警察によれば、死後数時間経ち、北朝鮮高官がカンボジア当局に照会してきて初めて、医師らの死亡を知ることになったという。

 2人のうち1人には、胸部や腹部をかきむしった跡があった。プノンペン・ポストによれば、警察は当初それを怪しいと考えたが、その後、警察も北朝鮮大使館も妻たちの説明を鵜呑みにし、事件性がないと結論付けている。

 事件翌日には同紙の記者が診療所を訪れているが、現場にいた男たちが取材に応じるのを拒否し、記者を追い払った。

 このミステリアスな事件が起こったのは、偶然にも、韓国との交渉を担ってきた北朝鮮のベテラン外交官、金養建(キム・ ヤンゴン)の死去が伝えられて数日後のことだった。金養建は12月29日、交通事故で死亡したとされる。人知れず姿を消した他の高官たちと違い、金養建の場合は国葬が計画されており、こちらは「ミステリアス」な死ではないだろう。

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