最新記事

宇宙開発

宇宙での「中国外し」は限界

2015年12月9日(水)17時00分
デービッド・ボロズコ

 どうして、アメリカは中国との宇宙協力を避けるのか。米海軍大学校のジョアン・ジョンソンフリース教授(国家安全保障問題)の言葉を借りれば、それは「政治的パフォーマンス」の産物なのかもしれない。

 下院歳出委員会商業・司法・科学小委員会のフランク・ウルフ前委員長が11年のNASA歳出予算法案に、中国との協力を禁じる条項を盛り込んだのは、中国の人権問題が理由だった。ウルフは、中国をナチスになぞらえたこともある対中強硬派だ。この条項により、中国人の科学者は国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗できない。

 ウルフは昨年引退したが、後任のジョン・カルバートソン小委員長も、「赤い中国をわが国の宇宙開発プログラムから排除」し続ける意向を示している。もっとも、これにより人権問題に関する中国の姿勢が変わることはないだろう。アメリカ以外の国が同調していないからだ。

 アメリカの一部の情報機関当局者の間には、技術交流を行うと中国に軍事利用されるのではないかという懸念もある。根拠のない懸念ではない。中国は07年1月、自国の気象衛星を標的に用いて衛星破壊実験を成功させている。

 当時の劉建超(リウ・チエンチャオ)中国外務省報道局長は、「脅威を感じる必要はない」「宇宙空間で軍拡競争をするつもりはない」と述べていた。しかし、米中経済安全保障調査委員会(米議会の諮問機関)が最近発表した報告書によれば、中国は衛星破壊ミサイルを含む「広範かつ強力な」宇宙兵器の開発を進めているという。

 意図がどうあれ、中国の宇宙開発は大半の国を圧倒している。清華大学(北京)の宝音賀西(パオイン・ホーシー)教授(宇宙工学)に言わせれば、この見方は過大評価だ。「中国は途上国だ。産業と技術の基盤はまだとても弱い。宇宙開発でアメリカを追い抜くのは、何百年も先だろう。そもそも、そんな日が来るのかも定かでない」

 それでも、宇宙開発を力強く前進させている中国を含めた国際協力体制を構築することには大きな利点がある。それは資源を節約できることだ。「共通の目的は、宇宙を理解すること。共通の敵は、複雑性とコスト」と、ISSの船長を務めたカナダの元宇宙飛行士クリス・ハドフィールドは述べている。国際協力を行えば、貴重な時間と予算を節約できる。

 アメリカと中国が宇宙空間で「共通の敵」と戦うために手を結ぶ日は、訪れるのだろうか。

From GlobalPost.com特約

[2015年12月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マネーストックM3、11月は1.2%増 貸出増で7

ビジネス

マグナム・アイスの甘くない上場、時価総額は予想下回

ビジネス

ボーイング、スピリット・エアロ買収を完了 供給網大

ワールド

米NJ連邦地検トップが辞任、トランプ氏の元弁護士
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 10
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中