最新記事

中国政治

汚職の次は「さぼり」を取り締まり始めた中国

2015年10月15日(木)18時24分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

予算未執行、プロジェクト遅延、空き地未開発を処罰

 この不作為の問題だが、なにしろ統計にあらわれないだけにどれだけ広がっているのか、どれほどの経済的損失をもたらしているのか、数字では把握しがたい。「李克強激怒」といった表面的なニュースばかりが一人歩きしてきた。

 そうした中、不作為の中身についてうかがえる情報が明らかとなった。9月末に、李克強肝いりの督査グループの調査結果が公表されたのだ。24省・市・区の官僚249人が処罰された。主要な摘発対象は、予算を執行せずにプールしていたという予算未執行、土地収用や工事着工が決められた期日通りに進まなかったというプロジェクト遅延、そして空き地未開発の3分野だ。

 空き地未開発とは住宅地や農地を政府が徴用した後、企業売却が進まなかったり、あるいは売却後の建設が進まなかったりという状況を意味する。だが、空き地未開発は反汚職運動と不作為よりもずっと前からある問題である。中国の土地収用というと、「二束三文で貧乏人の土地を召し上げて高値で転売する」というステレオタイプのイメージがある。以前は確かにそういう状況が大多数だったが、現在では土地の補償価格見直しもあり、状況は大きく異なる。大都市近郊の農村では「土地収用の補償金で一夜にして大金持ちになった農民が酒とギャンブルにおぼれて社会問題に」というケースまであるほど。

 それほど多額の補償金を支払っているならば、政府や払い下げを受けた企業はどうやって儲けているのだろうか。答えは時間である。何年間か土地を寝かせてから売却すれば、値上がり分が利益となる。右肩上がりの地価上昇が続いているからこそできる芸当だった。土地価格の急騰が止まった今でも、地価下落を防ぐために空き地の転売面積は慎重に制限されてきた。中央政府はこれを「囤地」(土地買い占め)と呼んで批判してきた。不作為の典型として槍玉に挙げられたが、古くからの問題である。

 予算未執行やプロジェクト遅延も、必ずしも不作為と直結する話ではない。そもそも上述のとおり、もともと不作為の問題は積極的な経済成長プランに取り組まないことだと指摘されていた。懸念されていた不作為と実際に摘発された案件には大きな隔たりがある。

 贈収賄といった通常の汚職事件とは異なり、サボりを摘発するのは難しいということだろう。汚職がいいわけではないが、官僚がばりばり仕事をするためのインセンティブであり、いびつな成果主義として機能していた側面もある。反汚職運動を進めるならば、インセンティブを与える別のシステムも作る必要があるのだろう。

[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪、中国軍機の照明弾投下に抗議 南シナ海哨戒中に「

ワールド

ルーブル美術館強盗、仏国内で批判 政府が警備巡り緊

ビジネス

米韓の通貨スワップ協議せず、貿易合意に不適切=韓国

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中