最新記事

世界戦略

毛語録から新華僑まで 中国が張り巡らす謀略の糸

反基地に揺れる日本分断を図った赤い本と 聖火リレーを埋めた留学生を操った黒幕とは

2015年9月29日(火)17時00分
楊海英(本誌コラムニスト)

ソフトパワー 一時は発行部数50億を超え、世界に配布された毛沢東語録 Claro Cortes IV- REUTERS

 かつての陸と海のシルクロード沿いに「一帯一路」という名の巨大な経済圏を構築し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の主導権を掌握することで、自国中心の国際秩序を新たにつくろうとする中国。世界はその戦略にどう対処すべきか。現代史を振り返ることで、中国の本質を分析してみよう。

 事あるごとに他国への干渉を図ってきた前科があるので、中国は警戒すべき相手とみられている。国力がまだ弱く、内部で激しい政治闘争、文化大革命が繰り広げられていた66年秋から翌年の夏にかけて、中国は『毛沢東語録』をソフトパワーとして世界を席巻しようとたくらんだ。毛の著作を抜粋した語録は当時24カ国語に翻訳され117カ国に配布。総発行部数は50億に達した。

 当時の世界人口は30億余りだったので、平均して1人1.5冊を所持したことになる。聖書にも迫るほど毛語録を印刷した中国政府は「中国は世界革命のセンター」「世界の3分の2の人々はまだ解放されておらず、赤い太陽である毛主席の降臨を待ち望んでいる」と宣伝し輸出した。毛語録を配り歩く中国の外交官を追放する国も出るなど、外交的衝突が絶えなかった。

 毛語録はネパール共産党や東南アジアの左翼系ゲリラの聖典となり、「農村から都市を包囲して革命を成功させる」指南書の役割を果たした。コンゴ(旧ザイール)や南米コロンビアのゲリラも北京に詣でて直接、政権転覆の指導を受けた。

 世界を中国の天下につくり直すために当局は華僑の動員に全力投球する。66年9月、中国共産党中央華僑事務委員会を主管していた廖承志(リャオ・チョンチー)は次のように演説して各国メディアを驚愕させた。「世界にはわが国の同胞たち、すなわち華僑は2000万人いる。ものすごい力だ。彼らを動員し、そのうちの100分の1がゲリラになってくれれば、われわれは20万人の兵力を擁することになる」

グローバリズムと衝突も

 廖は日本に生まれ育ち、早稲田大学で学んだ秀才。「現在、日本の山口県の人民たちも立ち上がって造反している。日本が動乱に陥れば、われわれにとってはチャンスだ」と、廖は扇動した。「山口県の人民」とは毛沢東主義を掲げた日本共産党山口県委員会(左派)を指す。当時、文革に批判的な日本共産党から除名される対立が起きた。

「千葉県三里塚の農民と佐世保の人民、山口県岩国の人民の反帝国主義闘争を支援しよう」と、69年に中国共産党は何回も声明を出し、空港・基地問題で揺れる日本の分断を図った。「華僑は日本人民を支援する最前線に立っている」とも持ち上げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中