最新記事

中国政治

軍事パレードにおける習近平「講話」の意味

習近平は、中国が世界をリードする正統性と米国に対抗できる軍事力を誇示し、国民の共産党離れを防ごうとした

2015年9月7日(月)18時00分
小原凡司(東京財団研究員)

「明るい未来」 共産党の指示に従えば間違いない、と習近平は国民に語りかけた Damir Sagolj-REUTERS

 2015年9月3日に北京で挙行された軍事パレードは、中国にとって一大イベントであった。軍事パレードに先立つ演説で、習近平主席は、「中国は永遠に覇を唱えず、永遠に拡張しない」と述べて平和的台頭を強調した。

 一方で、軍事パレードで披露された兵器を見れば、軍事パレードが米国を強く意識したものであったことは明らかだ。84%が初のお披露目である。口では「平和」を唱え、実際には米国に対抗する軍事力を誇示したことに対して、他国では矛盾を指摘する声もある。

 しかし、矛盾しているのは、ある意味、当然でもある。そもそも、国内向けに示さなければならない姿勢と、国際社会に向けて示したい姿勢が、矛盾しているからだ。

 現在、中国社会は非常に不安定になっている。習近平指導部が進める「反腐敗」や改革によって、痛みを被る者が増え、改革を進め始めたのに、経済格差も一向に解消しない。さらには、株価が暴落し、大衆が中国経済の継続的な発展を懸念し始めた。

もはや共産主義を信じる国民はほとんどいない

 中国の経済発展が失速し、大衆が豊かな未来を信じられなくなったら、共産党の権威は失墜し、一党統治はますます難しくなる。危機感を抱く中国指導部は、軍事パレードに、社会を安定させ、共産党の求心力を高める効果を期待したのだ。

 経済政策は、効果が表れるまでに時間がかかる上、劇的な変化を実感しにくい。そのため、戦勝記念式典で、「これから中国が発展する番だ」という印象を国民に与えようとしたのである。

 世界が祝う戦勝イベントの中心に中国がいることを見せることによって、中国が国際社会のルールを決める正統性を示し、軍事パレードで米国に対抗できる軍事力を有していると主張することによって、国際社会をリードする能力を見せようとしたのだ。

 中国指導部の意図は、先に述べた習近平主席の「講話」に表れている。習近平主席の講話は、各国首脳等に対して歓迎の意を述べた後、きれいに3つの部分に分けられている。最初の部分で述べられたのは、中国人民が祝う抗日戦争勝利についてである。もはや、共産主義を信じる国民がほとんどいない中、「抗日戦争に勝利し、中華人民共和国を成立させた」こと以外に、中国共産党一党統治の正統性を示すものはない。中国指導部にとって、抗日戦争勝利は、はずすことができないのだ。

 しかし、日本でも、「日中戦争を戦ったのは主として国民党であり、共産党ではない」といった批判がなされるように、日中戦争の中国側主役は国民党であった。中国指導部は、このことを理解していない訳ではない。「講話」の中で、習近平主席は、「共産党」の名も「国民党」の名も使用していない。主語は、「中国」であり「中国人民」なのである。歴史を歪曲しないで共産党統治の正統性を示す、苦しい表現だとも言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏の消費者インフレ期待、総じて安定 ECB調

ビジネス

アングル:日銀利上げ、織り込み進めば株価影響は限定

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る

ワールド

プーチン氏、来月4─5日にインド訪問へ モディ首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中