最新記事

中国

抗日戦勝記念式典は、いつから強化されたのか?

2015年8月28日(金)16時30分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 舞台下の宴会場には、江沢民国家主席がいた。しかしいつまでたっても江沢民の名前は呼ばれない。見ればアジアから来た国家代表は江沢民だけではないか。「欧米首脳にのみ舞台に上がらせて、中国人民を代表するこの私(江沢民)を舞台に上げないとは何ごとか!」

 江沢民は乾杯を拒否してエリツィンの秘書を呼びつけ、自分にも祝杯の辞を述べさせろと要求したが、反応がないまま、舞台のマイクが下げられ、次の催しに入ろうとしていた。
江沢民は怒った。

 自分で直接エリツィンのもとに走って行き、「中国の代表として発言を求める」とエリツィンに迫った。エリツィンはすぐに同意し、江沢民は舞台に立った。あわてて元に戻されたマイクに向かって、江沢民は声高々と次のように語った。

――私は中国政府と人民を代表して、すべての反ファシスト戦争勝利に貢献した国家と人民に熱烈なる祝賀を表するとともに、かつて中国人民による抗日戦争を支え援助してくれた全ての国家と人民に心からなる感謝と敬意を表したい。

 この瞬間から、中国共産党の抗日戦争は「世界反ファシズム戦争」として位置づけられるようになった。

 そして同年9月3日、中国では盛大なる「抗日戦争勝利記念大会」が全国的な国家行事として開催され、おまけにこれを「世界反ファシスト戦争勝利記念大会」と位置付けるようになったのである。

 人民大会堂におけるスピーチの中で、江沢民は次のように述べている。

――私がここで特に明らかにしなければならないのは、ソ連、アメリカ、イギリス等の反ファシズム同盟国家は、中国の抗戦に人力的にも物質的にも甚大な支持をしてくれたことだ。したがって抗日戦争に勝利した紅旗の中には、こういった各国の友人たちの血の跡が刻まれている。

 なんと、中国共産党にとって神聖であるはずの紅旗(赤旗)の紅い血の色の中に、アメリカの血が入っていると言ったのだ。世界が「赤化」することを最も警戒していたアメリカに対してである。

愛国主義教育が反日教育に

 本来、1994年に江沢民が始めた愛国主義教育は、1989年の天安門事件を受けたものだ。中国の若者が、改革開放によって開けられた窓から入ってくる欧米、特にアメリカの文化思想に触発されて、民主化を叫び始めた。そのため「欧米の文化と思想だけが優れたものではなく、中国には中国伝統の文化と中国特有の思想があるので、それを愛せよ」というのが、最初の「愛国主義教育」の出発点だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L

ワールド

中国石炭価格は底入れ、今年は昨年高値更新へ=業界団

ワールド

カナダLNGエナジー、ベネズエラで炭化水素開発契約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中