最新記事

中国

ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱

国際社会で絶大な存在感を放つ14世にいずれ訪れるXデー ―― 中国が「偽」ダライ・ラマを擁立すれば暴力闘争は必至に

2015年7月16日(木)17時30分
ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)

非暴力の象徴 アメリカで80歳を祝う行事に出席したダライ・ラマ14世 Jonathan Alcorn- REUTERS

 今月6日に80歳の誕生日を迎えた、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世。彼が死去すれば中国はその座に傀儡を置き、ダライ・ラマの転生制度を骨抜きにする可能性が高い。

 中国は既に、第2位の高僧パンチェン・ラマを独自に擁立している。95年にダライ・ラマがパンチェン・ラマ11世に認定した当時6歳の少年は直後に中国当局に誘拐され、今も「政治犯」として拘束されている。第3位の高僧カルマパ17世は、99年に中国を脱出してインドに亡命した。

 今年はチベットにとってもう1つ区切りの年でもある。中国が「チベット自治区」を発足させてから50年になるのだ。ただし、この名称は大きな誤解を招く。チベットは中国の支配下にあり、歴史的なチベット地域の半分近くが中国の行政区に組み入れられている。

 50~51年に中国はチベットに侵攻して制圧し、アジアの戦略地政学的な地図を塗り替えた。インド、ネパール、ブータンの「隣国」となり、チベットを源とする重要な河川システムを掌握している。

 中国にとって、437年の歴史を持つダライ・ラマの転生制度を牛耳ることは、チベット支配の最後の仕上げだ。ダライ・ラマ14世は59年にインドに亡命して以来、国際社会において、中国のチベット支配への抵抗の象徴となってきた。しかし、近年は中国の国際的な影響力が高まり、外交的および経済的な圧力を受けてダライ・ラマの入国を拒否する国が増加している。

 07年に中国はチベット仏教の高僧の転生について、政府の承認がなければ違法とする条例を制定した。要は、ダライ・ラマの後継は自分たちが選ぶと宣言し、14世の死を待っているのだ。ムソリーニがローマ法王(教皇)を指名できるのは自分だけだと主張するようなものだ。

 女性に生まれ変わるかもしれない、存命中に後継を指名するかもしれない──高齢のダライ・ラマは自身の転生について、さまざまな可能性を公に語ってきた。転生者は中国支配下のチベットではなく、「自由な世界」で見いだされるとも述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中