最新記事

北アフリカ

欧州を襲った地中海「移民船クライシス」

2015年5月21日(木)13時05分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

 沿岸を監視する機関や勢力もない。むしろ、部族指導者や犯罪組織、地域の実力者などの権力者たちは、密航ビジネスで儲けているのが実情だ。

 こうした無政府状態の地域は、いくつかの大きな問題を生んできた。シリアでは、内戦で生じた無政府地帯から、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)が出現した。権力の真空状態に乗じて力を付けたISISは、今では中東の広大な地域を支配下に収めている。

 無政府状態は、ナイジェリアでも凶悪なイスラム教スンニ派過激組織ボコ・ハラムを台頭させ、イエメンでは部族間の内戦に火を付けた。そして地中海では、大勢の移民たちの命を奪う事態を招いたのである。

 この問題へ対処するのは、あまりに困難に思えるかもしれない。欧米諸国が内向きになり、国際問題への関与を縮小しようとしている状況では、なおさらだ。実際、欧米が混乱に終止符を打つことは難しい。無秩序状態の国に外国が秩序をもたらそうとする試みは、これまであまり成功していない。

 しかし、リビアやシリアなどの破綻国家の混乱が国境の内側に封じ込められると考えるのは、楽天的過ぎる。混乱は国境の外にあふれ出し、最終的に欧米諸国の足元に押し寄せる。オバマ米政権は、シリアの内戦に引きずり込まれることを避けようと最善を尽くした結果、ISISと対峙する羽目になった。ヨーロッパ諸国は、好むと好まざるとにかかわらず、沿岸に押し寄せる密航者たちの問題に向き合わなくてはならない。

 先月末、欧州理事会がこの危機について話し合うために特別の会合を開いた。その同じ日に、また14人の難民が命を落としている。

[2015年5月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中