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チベット

偽物大国がもくろむ中国製ダライ・ラマ計画

2015年4月3日(金)11時56分
楊海英(本誌コラムニスト)

 チベット人から「中国のパンチェン・ラマ」「偽パンチェン・ラマ」と称される少年は中国政府の民族政策をオウムのように繰り返す役割を現在まで果たしてきた。当然、「中華民族の裏切り者にして、民族分裂主義者」のダライ・ラマが極楽浄土に昇天した後は、中国政府を熱愛する「中国のダライ・ラマ」、チベット人たちからは絶対に「偽ダライ・ラマ」と呼ばれる者の擁立計画を北京当局は練っている。

 そもそもダライ・ラマとは、モンゴル語で「海のごとき知識を有する師」の意。16世紀にモンゴルの英雄チンギス・ハンの子孫からチベットの高僧に与えられた称号だ。転生活仏だった高僧は前世2代からさかのぼってダライ・ラマ3世と称した。ユーラシアで広く認められていたモンゴル王家の権威を借りて政教一致のチベット統治に利用しようとした結果だ。当然のように、チンギス・ハン家の直系子孫がダライ・ラマ4世になるほど、両者の政治と宗教上の連携は緊密だった。

 満州人が清朝を樹立してからも、モンゴルの宗教政策は受け継がれた。歴代の清朝皇帝はチベット仏教の保護者として、忠実な檀家の役割を果たしてきたし、歴世のダライ・ラマも清朝皇帝の長寿と健康を祈った。領土問題が存在しなかった当時と比べ、今やチベットが深刻な民族問題となっているのは、中国によるチベット侵略以降だ。中国が政教一致の最高指導者ダライ・ラマを敵視している以上、問題解決の見通しは立たない。

 私はチベット各地を何回も歩いてきた。「偽パンチェン・ラマ」が北京から訪れるたびに、政府は気前よく札束をチベット人に配って動員していた。その実態はといえば、歓迎行事に参加する者は少なく、金に目がくらんで動員された人々の顔に敬意のかけらも見られない。まさに惨憺たる光景だった。

 ダライ・ラマに対するチベット人の尊崇の念はパンチェン・ラマの比ではない。もし「偽ダライ・ラマ」がチベットを闊歩するようになったら、チベット人は屈辱に震え、武力闘争をも辞さない覚悟で臨むことだろう。中国の民族問題は一層困難になると予想してよい。

[2015年4月 7日号掲載]

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