最新記事

現地取材

ウクライナ紛争の勝者はどこに?(後編)

2014年12月24日(水)12時31分
オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

愚者が賢者に勝った革命

 戦争経済を動かすには、当然のことながら、ドネツクから逃げた実業家や財閥の資産は没収しなければならない。この地域の鉱山やインフラは今でこそ紛争でダメージを受けているが、いずれドネツクは「金属の採取と精製の一大共和国」になる。ベレジンはそう豪語した。

 市内のホテル「ラマダ・イン」のバーは混み合っていた。隅には映画『スター・ウォーズ』のジャバ・ザ・ハットに似た巨漢が座っていた。以前は地元で羽振りの良い実業家だったが、今はドネツク政府の高官だという。

 ただし、この男は不倫の真っ最中のようだ。お相手ははつらつとした金髪の女性だ。しかし彼女にはボクサー上がりの実業家の夫がおり、時折このホテルのバーに姿を現すという。そんなとき、察しのいい客たちは巻き込まれることを恐れ、さっさと勘定を済ませて引き揚げるそうだ。

 だが今夜は、恋する2人を邪魔する者はいない。側近のボディーガードが、ノキアの携帯電話を山ほど詰めたナイロン袋を探っていた。どれも盗聴防止用のプリペイド携帯だ。

「この町を仕切る人間には3つのタイプがいる」と、アメリカ人の記者仲間が言った。「ソ連時代の役人タイプ、地元のごろつき、そしてロシア軍の諜報員だ」。しかし、ここにいるのは2番目のタイプのみ。ベレジンのようなソ連の役人タイプに1杯8ドルのビールは買えない。

 権力を手にした地元のごろつきこそ、「ノボロシア革命」の唯一の勝ち組なのだろう。

 今のところ、ロシアはこの革命から何も得ていない。プーチンは世界中からのけ者にされ、ロシア経済は欧米による制裁で大打撃を受けている。

 ウクライナの経済と政治も壊滅的な状態だ(それでもロシアよりは望みはある)。ドネツク周辺の人々は燃料も食料も足りず、寒さと飢えに耐えて冬を越すしかない。たっぷりあるのは威勢のいい演説と空っぽの約束だけだ。

 この革命では年寄りが若者に、愚者が賢者に、過去が未来に勝った。悲劇と茶番の歴史が、また繰り返されている。

[2014年12月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インテル、第3四半期利益が予想上回る 株価7%上昇

ワールド

ロシア軍機2機がリトアニア領空侵犯、NATO戦闘機

ワールド

米中首脳会談、30日に韓国で トランプ氏「皆が満足

ワールド

米政府、アラスカ野生生物保護区内の資源開発再開で具
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中