最新記事

動物

中ロ関係を翻弄する「プーチンのトラ」の行方

プーチンのトラが国境を越えて中国に。トラに万一のことがあれば中国には大恥だ

2014年10月24日(金)12時38分
ジョシュア・キーティング

己の化身? 絶滅危惧種シベリアトラの保護に情熱を注ぐプーチン Animal Press-Barcroft Media/Getty Images

 中国・黒竜江省で迷子らしきシベリアトラを見掛けた際は、クレムリンにご一報を──。

 国際的騒動を巻き起こしているのは、ロシアのプーチン大統領が野生に放したシベリアトラのクージャ。中ロ国境を流れるアムール川を渡って中国領内に入り込んだ。

 クージャが装着している追跡装置によって黒竜江省にいることを突き止めたロシア当局は、不安に駆られている。トラの死体は中国の闇市で最高1万ドル相当の値が付く人気商品で、密猟が横行しているからだ。

 野生のシベリアトラは500頭ほどしか生息していない絶滅危惧種。ワイルドなイメージで売るプーチンは、保護に情熱を燃やしている。クージャは母親を密猟者に殺された後、きょうだいと共に保護され、5月にプーチンの手で野生に返された。

 中国はシベリアトラがとりわけ危機に瀕している国で、今では数十頭しかいないとされる。欧米とロシアの間で緊張が高まるなか、中ロは密接な絆を強調している。「プーチンのトラ」に万一のことが起きたら、中国にとっては大きな恥だ。

 中国当局はカメラ60台以上を設置してクージャを捜索。今月中旬には、クージャのものらしき体毛やふんを発見した。その一方で、今度はクージャの姉妹のイローナが中ロ国境を越え、より人口密度が高い地域に迷い込んだ可能性が浮上している。

 今回の騒動を受けて「クージャは亡命した」「プーチンの代理として中国東北部の併合に乗り出した」というジョークもささやかれている。もちろんトラに国境は存在しないし、餌を求めてアムール川越しに行き来するのもよくあることだ。
とはいえ動物が国境にこだわることもある。有名な例が東西冷戦時代を経験したアカシカだ。

 このアカシカの生息地は、旧西ドイツと旧チェコスロバキアの国境地帯。冷戦当時、国境沿いには電気柵が張り巡らされていた。冷戦終結から20年以上が過ぎた今も、アカシカは柵があった場所を越えようとしない。

 動物が「国民性」を身に付けることもあるらしい。研究によれば、イスラエルのアレチネズミは隣国ヨルダンの仲間よりずっと用心深い。イスラエル側では、工業型の大規模農業が行われていることが原因のようだ。

 危険やカルチャーショックに見舞われる前に、クージャが故国へ戻れることを祈ろう。

© 2014, Slate

[2014年10月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中