最新記事

競争力

インドが激安で火星探査機を飛ばせた理由

宇宙開発や外国企業誘致キャンペーンで勢いづくインド独特のメンタリティー

2014年10月7日(火)16時18分
ジョン・エリオット

アジア初 火星探査機の打ち上げ成功を祝うモディ首相とインド宇宙開発研究所の研究者たち Abhishek N. Chinnappa-Reuters

 インドは先週、アジアの国として初めて、火星探査機を火星の周回軌道に乗せることに成功した。旧ソ連とアメリカ、欧州が既に成功しているが、初挑戦で成功をしたのは単独の国ではインドのみ。しかも、コストは3年で7400万ドルと、アメリカが6年かけて6億7100万ドルも投じたのに比べて破格の安さだ。

 同じく先週、モディ首相は「メイク・イン・インディア」と銘打ったインドでものづくりを呼び掛けるキャンペーンを開始した。狙いは外国企業を誘致し、停滞気味の製造業と輸出を促進させることだ。

 この2つの出来事を、景気が低迷しているインド経済の復活の兆しと捉える人もいるかもしれない。残念ながら前途は厳しい。探査機「マンガルヤーン」が火星の軌道に乗ったちょうどその頃、インド最高裁が、93年から11年までに行われた石炭鉱区の割り当てが違法として、218件中214件の鉱業権を来年3月から取り消す判断を下した。このままではインドの電力業界や鉄鋼業、その他の産業は危機に陥り、外国人投資家もリスクを懸念するだろう。

 先週起きた一連の出来事は、インド人特有の気質とその功罪を物語っている。インド人には、足りないものは即席で間に合わせるという「ジュガード」と、最後には何とかなるさという「チャルタハイ」のメンタリティーがある。だが、この精神構造で政策決定を行ってきたために腐敗が広がり、景気も後退。危機感を募らせた有権者が5カ月前の総選挙で、モディに望みを託したというわけだ。

歴代政権の尻拭いのため

 インドの多くの産業が低迷するなかでも、宇宙工学やロケット発射技術は世界トップクラス。理由は主に、インドが74年と98年に核実験を行った後、アメリカなどがインドに対してハイテク技術を輸入できないよう経済制裁を科したことにある。そこでインドは自力で開発にいそしみ、先週の火星探査の成功にもつながった。

 さらに火星探査に関する研究開発の速さとコストの低さは、宇宙産業界が「ジュガード」の欠点を利点に変えた証しだ。限られた資源から最小のコストで最良のものを生み出した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中