最新記事

チベット

ダライ・ラマ訪問という外交リスク

2014年10月6日(月)12時04分
ティモシー・マグラス

 寛容と福祉の国で知られるノルウェーさえ、ダライ・ラマを避けている。ダライ・ラマは今年5月にノルウェーを訪問したが、政府高官たちは彼との面会を拒んだ。理由は、10年に獄中の民主活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)にノーベル平和賞が授与された際、中国から受けた「報復」を覚えていたからだ。

 受賞者はノーベル賞委員会によって選ばれるのであって、ノルウェー政府は関与していないにもかかわらず、中国はノルウェーからの輸入を制限。文化交流や外交にも影響を及ぼした。

 この苦い経験から、ノルウェー政府は同じ轍は踏まないと決意したようだ。エルナ・ソルベルグ首相は、中国との関係を重視してダライ・ラマと面会しなかったと公言。「中国政府が会うなと言ったわけではない。ただ私たちは、もし彼と会えばもっと長く『冷凍庫』に入れられたままになることを知っている」と語った。

 こうした経済的圧力を使ってもダライ・ラマの影響力を封じ込められない場合、中国は現14世が亡くなった後の後継者選びに口を出してくるはずだ。中国政府は既に、15世を選定する権限を主張している。

 しかしダライ・ラマは先日、ドイツ紙ウェルト・アム・ゾンタークに対し、自分の代を最後にチベット仏教の転生制度を廃止すべきだと語った。以前にも、「政治目的」のために後継者を選ぶ権利は誰にもない、と述べている。中国に翻弄される運命に終止符を打ちたいのだろう。

From GlobalPost.com特約

[2014年9月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中