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中東

記者が見たシリア無差別攻撃の現実

2013年9月2日(月)14時23分
アイマン・オグハンナ(ジャーナリスト)

地下が市民の生活の場に

 私たちはその地下壕に案内された。石段を下りると、居間のテレビでアニメが流れていた。電話を置く炉棚があり、奥には敵機が上空を旋回しているときに使う寝室もあった。地下が一家の生活の場になっていた。

 私たちは腰を下ろしてコーヒーを飲み、たばこを巻き、地下壕の出来栄えに感心した。砲撃の音が妙に心地よく、地下壕に守られていることをあらためて意識した。「これで息子たちは安全だ。とても満足している」とアブ・アラーは言う。

 多くの住民もアブ・アラーを見習い、地下壕を掘って暮らし始めた。町のあちこちでブルドーザーが穴を掘り、岩盤を削って仮設シェルターを造っている。時間とカネか人手があれば、電気や電話やテレビやベッドを備えた家のような空間にすることも可能だ。それが無理でも爆撃からの逃げ場は手に入る。

 日が落ちてから、私たちはサファフ医師と共にマフムード家の夕食に招かれた。前菜とラム肉、レバーを使ったケバブという豪華な料理の後、5人の子供がチェリーを食べながら、うつ伏せになった父親の体にまとわりつく。今回の戦争は卑劣だが、シリア人のもてなしの心は健在だ。マフムードが作ったアイスコーヒーを飲みながら、サファフ医師が戦争の話をする。

 その夜初めての砲弾が落ち、マフムードの2歳になる末娘が目を丸くして部屋を見回した。片方の目が真っ赤なのは、昨年、自宅が砲撃された際に破片で傷ついたせいだ。

「心配はいらない」とマフムードは言う。「味方の砲弾だ。カーミドを狙ってる」。カーミドはカーンアソブルから十数キロ離れたシリア軍の基地だ。「しかし政府軍も反撃してくるだろう」とサファフ医師は言う。カーミドのレンガ工場から黒煙が上がり、マフムードの無線が鳴った。火災だ。

 政府側は怒りに燃えて再び容赦ない集団処罰に乗り出す。その夜、マフムードのいとこ宅の蚊帳の下で、私は近くに落ちる砲弾の音を聞いていた。テレビには政府による残虐行為の数々と潘基文(バン・キムン)国連事務総長の演説の映像が映し出されていた。何発の砲弾が落ちたのか、途中で分からなくなった。友人は150まで数えて後は数えるのをやめたという。

 翌朝、マフムードの元に呼び出しが掛かった。爆撃のさなかに妊婦が産気づいたという。私は車でマフムードのいる野戦病院に向かった。壁には「汚れなき手と高潔な心が新たな命を生む」という落書きがある。ここにも医師がいて、取材はまたしても砲撃で中断され、血を流している幼い少年がまた1人運び込まれる。

「砲撃は毎日行き当たりばったりに行われる」と医師は言う。政府軍の空爆の標的にされる恐れがあるので、自分の名前も病院名も伏せてほしいという。医師はたばこをゆっくりとふかして笑う。「たばこを吸うのは砲撃の後だけ。それから砲撃の前にも。1日に30本吸うよ」

[2013年7月16日号掲載]

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