最新記事

スキャンダル

インド議会「犯罪汚染」に打つ手なし

下院議員の10分の1以上はレイプ、殺人などの暴力犯罪の容疑をかけられており、そうとわかっていても再選される

2013年8月28日(水)15時52分
ジェーソン・オーバードーフ

彼らは大丈夫? 与党・国民会議派のガンジー総裁(中央)、シン首相ら投票を行う指導者たち Adnan Abidi-Reuters

 インドの議会は刑務所内で開いたほうが手っ取り早い、と言っても過言ではない。

 選挙の監視を行っているニューデリーの市民団体「民主改革協会(ADR)」によれば、インド議会(下院)では選挙で選ばれる543人の議員のうち162人が、州議会では全国の4032人のうち1258人が刑事犯罪の疑いを掛けられている。おまけに統計を見ると、犯罪歴のある立候補者の当選確率は、そうでない立候補者の2倍近い。

 7月、インド最高裁は服役中と拘束中の人物の被選挙権を認めないとの判断を示したが、各政党はこぞって激しく反発。司法の権限を逸脱した判断だと、最高裁を非難する始末だ。

 政治家が金銭スキャンダルで疑いを掛けられるケースはほかの国でも決して珍しくないが、インドの場合、政治家たちが問われているのは経済犯罪だけではない。下院議員の10分の1以上が誘拐、レイプ、殺人など暴力犯罪の容疑をかけられている。

 04年の総選挙で、モハメド・シャハブディン議員(ビハール州選出)は、ライバル政党の運動員を殺害目的で誘拐(その後行方不明)した疑いで収監されていたのに4期連続で当選。選挙の後、対立候補の運動員9人が殺害された。

 ウッタルプラデシュ州議会議員のラグラジ・プラタップ・シンは05年、「テロ防止法」に基づく誘拐容疑で拘束中だったにもかかわらず、州政府の閣僚に就任した(シンは、今年3月に地元警察官が殺害された事件でも捜査対象になっている)。

 この状況は簡単には変わらないだろう。犯罪容疑のある政治家たちは莫大な資金力と政治力を持っていて、有権者(や対立候補)を買収したり、脅したりできる。しかもインドの政党は、犯罪歴のある人物でも候補者に指名する。「政治力と資金力がある上に、政党がお墨付きを与えている」と、ADRのアニル・バイルワルは言う。

 裁判所の力が弱いインドでは最高裁の判断も効果は怪しい。容疑者の立候補禁止は、政治家に対してだけ「無罪の推定」ではなく「有罪の推定」を課すものだとして議会に無効とされる可能性もある。有罪になった犯罪者の立候補禁止も、裁判が長いインドでは大した意味がない。判決が下る頃には政治家を引退しているだろう。

 インド議会の「犯罪汚染」が解消する日はいつ来るのか。

[2013年8月20日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

三菱電機と台湾鴻海、AIデータセンター分野で提携

ワールド

米民主重鎮ペロシ氏が政界引退へ、女性初の下院議長

ワールド

中国商務省報道官、EUとの貿易・投資協定交渉に前向

ワールド

米ユナイテッドとデルタ、7日の便の欠航開始 各20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中