最新記事

アフリカ

襲撃事件で始まったケニア大統領選

東アフリカの雄ケニアの選挙が始まったが、暴動で1100人以上が死亡した前回選挙の記憶を払しょくできるか

2013年3月5日(火)16時38分
トリスタン・マコーネル

高い関心 投票所には開場前から大勢の有権者が詰めかけて列を作った Julia Sestier-Reuters

 東アフリカの安定の要といわれるケニアで4日、重要な選挙が始まった。有権者たちは、首都ナイロビを含む各地で夜明け前から投票所で長い列を作った。

 だが投票の開始を前に、2カ所で恐ろしい襲撃事件が起きた。

 東部のインド洋に面する沿岸地域モンバサとキリフィで、なたによる警察襲撃事件が発生、少なくとも15人が死亡し、そのうち9人は警官だった。デービッド・キマイヨ警視総監は、2件の事件が分離独立を目指し活動するモンバサ共和評議会(MRC)の犯行だと非難した。MRCは選挙前から犯行予告を行っていた。

 07年に行われた前回の選挙では、選挙結果への不満から民族対立に火がつき、暴動が発生した。当時1100人以上が死亡した前例があるため、今回の選挙は大きな注目を集めている。無事に選挙が行われれば前回選挙の悪評を払しょくできるが、再び暴力沙汰になれば、安定と繁栄の国というケニアの評判が大打撃を受ける。

 投票が始まった4日朝、湾岸地域以外では問題は起きなかった。お祭りの雰囲気が漂い、選挙の成功を脅かすのは、熱心な有権者が大挙して投票に訪れ、なかなか動かない長い列ができることくらいだった。

 選挙では公立小学校が投票所として使われている。ナイロビのスラム、キベラにあるオリンピック小学校はその中で最大だ。午前6時すぎに投票が始まる前に、数千人がすでに長い列を作っていた。

 選挙での暴力行為は、投票そのものよりも、物議をかもすような選挙結果が原因で起きる場合が多い。オリンピック小学校で、投票に訪れた有権者に話を聞くと、選挙結果は受け入れるつもりだと言う。「支持する候補たちが受からなくても、それはやむを得ない」

僅差の大統領選で緊張も

 今回の選挙は、ケニア史上もっとも複雑なものだと言える。

 有権者は6つのポストに投票を行う。これまで同様に大統領と国会議員(下院)を選び、それに加えて憲法改正で二院制になったために上院議員も選出する。再編された郡の知事や議会議員、そして女性議員も選ばれる。ケニア史上、最も煩雑な選挙だ。

 不正を防ぐため、親指の指紋をスキャンして、コンピューターのデータベースとの相互確認をする有権者生体登録システムが新たな対策も導入されている。だがそれによって投票に時間がかかるという事態も起きている。

 大統領候補が最初の投票で勝利するには、過半数以上の得票を獲得しなければならない。さらに再編された47の郡のうち24郡で25%以上の得票を得る必要がある。第1ラウンドで勝者が出ない場合は、4月に第2ラウンドが行われる予定だ。

 世論調査によれば、有力な候補は2人だ。現首相のライラ・オディンガと、副首相のウフル・ケニヤッタだ。両者の差は僅差で、開票が進むにつれて状況が緊迫しないとも限らない。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中