最新記事

サッカー

名門バルサにカタルーニャ独立運動の影

2012年11月27日(火)15時07分
ジミー・バーンズ(ジャーナリスト)

 演説から35年を経て、バルサの政治的立場はカタルーニャの地位をめぐる最近の論争の中で、過激な方向に向かうように見えた。しかし今のバルサはグローバルな「ブランド」であり、政治や文化、社会の偏狭な利害関係とは無縁だ。ファンだけでなく、選手やスポンサーもだ。

 クラブの主な収入源はカタルーニャにはない。カタール財団、ナイキ、そしてレアル・マドリードと分け合っているテレビ放映権料だ。

 バルサの育成組織「マシア」は、世界中の有望な若い才能を集めており、ナショナリズムとは関係ない。そこで教えられているのは寛容とチームワークで、政治や分離主義についてではない。マドリードとアンダルシア地方にもバルサの活発なファンクラブがあるが、そこに属するメンバーはカタルーニャの分離独立を望んでいない。

上層部は独立より「拡大」

 バルサが世界中に数え切れないほどのファンを獲得している理由は、その政治的立場よりもプレースタイルとクラブの実力だろう。

 ピケ、シャビ、プジョルといったカタルーニャ出身の主力選手は、地元への愛を口にする。その一方で彼らは、ビセンテ・デル・ボスケ監督率いるスペイン代表の一員としてもプレーしている。メッシ、イニエスタ、ペドロ、ビジャといったカタルーニャ出身者ではない主力選手も、特に「スペイン」にとどまることに異論はなさそうだ。メッシはアルゼンチン人だし、他の選手はカタルーニャ人ではないスペイン人だ。

 カタルーニャが分離独立したら、バルサはどうなるのか。可能性としてあり得るのは、スペイン内戦時のようにカタルーニャ・リーグに籍を移すことだ。そうなればカタルーニャ出身の選手はスペイン代表を脱退し、カタルーニャ代表を結成することになる。これがクラブや選手、そしてファンにとっていいかどうかは分からない。

 今のところ、バルサ上層部の野望は独立問題とは別の方向に向いている。その野望は、昨年11月にカタールのドーハで開かれた会議でのロセイの発言から分かる。国内リーグを縮小し、テレビ視聴者を増やせるチャンピオンズリーグを拡大するという各国主要クラブの要求に欧州サッカー連盟(UEFA)が応じないなら、14年には新しいヨーロッパリーグが立ち上がる可能性をロセイは示した。

 しかしスペイン代表監督のデル・ボスケは、スペインリーグを解体することに反対している。主要クラブだけの「スーパーリーグ」の設立には、特にクラブへの忠誠心が強いといわれるイングランドのファンが反発するとも予想する。

 代案としてデル・ボスケは、スペインリーグでテレビ放映権料をもっと広く公平に分配すべきだと主張している。だが一方で、それが難しいことも分かっている。
「バルサとレアル・マドリードの2クラブがすべてを独占しているのは、サッカーの将来にとって良くない」と、デル・ボスケは筆者に語った。「しかしどちらも非常に力があるから、現状を変えるのは難しい」

 カタルーニャに独立の機運が高まるなか、将来の「カタルーニャ大統領」就任を期待されているのが、バルサの前監督ジョゼップ・グアルディオラだ。バルサを本当の意味で世界最高のクラブに育てたといわれる彼だが、政治には関わらず、しばらくはこのままニューヨークで休養することを明らかにした。これには失望したカタルーニャ人も多いだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中