最新記事

サッカー

名門バルサにカタルーニャ独立運動の影

スペインで「クラブ以上の存在」と呼ばれる名門サッカーチームFCバルセロナはカタルーニャ独立の機運と無縁ではいられない

2012年11月27日(火)15時07分
ジミー・バーンズ(ジャーナリスト)

キックオフ 「カタルーニャの日」である9月11日、バルセロナでは独立を求める大規模なデモが行われた Albert Gea-Reuters

 カタルーニャ自治州の独立の機運によって巻き起こったスペインの危機が、世界屈指の名門サッカークラブの将来に不穏な影を投げ掛けている。そのクラブとは、スペイン北東部カタルーニャ州の州都バルセロナを本拠地とするFCバルセロナ。世界中のファンは愛を込めて「バルサ」と呼ぶ。

 9月11日は、18世紀のスペイン軍に対する敗北を思い起こす「ラ・ディアダ(カタルーニャの日)」だった。スペインからの独立を求めて150万人がデモを行ったが、そこにはバルサのサンドロ・ロセイ会長の姿もあった。政党指導者も含め、デモ参加者の多くはスペインからの完全な分離独立を求めた。

 これまでロセイは、クラブを独立運動に関係させることは避けてきた。しかし個人としてデモに参加したロセイは、バルサはこれ以上、政治的中立を維持できないと思い知った。「バルサはカタルーニャの多数派の決定に従う」。ラ・ディアダの後の試合中、一部のファンが独立を求める声を上げたとき、ロセイはファンに向けて語った。

 このように政治に取り込まれるのは、自らを地域の政治的・文化的なアイデンティティーの象徴と自負するサッカークラブにとっては致し方ないことではある。バルサが20世紀初頭に設立された時期も、スペイン帝国の崩壊と、ヨーロッパの最も進取的な都市を目指すバルセロナの再生に重なっていた。バルサの成長はカタルーニャ人の誇りであり続けた。

 1920年代のプリモ・デ・リベラ将軍の独裁、そして、フランシスコ・フランコ将軍による独裁の時代を通じて、バルサはカタルーニャの「愛国心」を象徴するものになった。バルサの歴史は民主主義や公益と絡み合いながら、一方にはジュゼップ・スニョル会長がフランコの軍隊に暗殺されるという血塗られた側面もある。

 バルサのファンは、選手としてクラブで活躍し、後に監督を務めたオランダ人ヨハン・クライフの逸話が大好きだ。クライフはフランコに逆らう形で、長男をジョルディと名付けた。カタルーニャの守護聖人の名だ。

「クラブ以上の存在」というバルサのスローガンは、独自の文化を誇るカタルーニャ社会でのクラブの地位だけでなく、党派的、国家主義的な利害を超えた価値を体現する存在であることも示している。しかしスペインが現代の民主主義国として発展する歴史の節目節目にバルサが何らかの役割を果たすのは、やはり民族主義の力だ。

グローバルなブランド

 75年にフランコが死ぬと、バルサの首脳陣は追放されたカタルーニャ民族主義の指導者ジュゼップ・タラデーリャスに会い、新たに設立されたカタルーニャ地方政府の閣僚就任を要請した。77年、カタルーニャに戻ったタラデーリャスはバルサのホームスタジアム、カンプノウで大歓迎を受けた。

「すべてのカタルーニャ人が戦った末に、私たちはついに自由を手にした」と、タラデーリャスは言った。「皆さんがカタルーニャ主義への忠誠を忘れず、このカタルーニャを永遠に豊かに、強く、自由にすることを信じている。バルサ万歳! カタルーニャ万歳!」。この演説は今も大半のファンがそらんじることができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米銀のSRF借り入れ、15日は15億ドル 納税や国

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ワールド

スリランカ、26年は6%成長目標 今年は予算遅延で

ビジネス

ノジマ、10月10日を基準日に1対3の株式分割を実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中