最新記事

中東

「野戦病院ごっこ」に興じるシリアの子供たち

医師になりきって重傷を負った母親を治療する、夜は大人に銃で撃たれる夢を見る――激しい内戦が子供たちの心に刻んだ傷はあまりにも深い

2012年10月1日(月)15時54分
マイク・ギグリオ(本誌記者)

小さな犠牲者 激しい戦闘で肉親や故郷を奪われたシリアの子供たちは深いトラウマに苦しめられている(中部ホムス、8月) Yazan Homsy-Reuters

「けが人がいる。すごく危険な状態だ。片手と片足が切断されてる」。ハカム・バリカ(8)は膝をつき、洗濯挟みで弟のシャツの袖を挟んだ。「さあ、患者をトルコに運ぶんだ」

 少年たちは今、「野戦病院ごっこ」の真っ最中。ただの遊びといえば遊びだが、現実を色濃く反映している。ハカムと3人の弟は現在、シリア国境に近いトルコの都市アンタキヤで難民生活を送っている。両親と共に出口の見えない内戦を逃れてきたのだ。

 兄弟の母親は故郷の都市ホムスにいたとき、政府軍の砲撃で左腕を失い、腰と大腿に重傷を負った。再び歩けるようになるかどうか分からないと、医者は言った。

 彼女は反政府勢力が運営するホムスの野戦病院に運び込まれた。容体が安定すると、兄弟の父親は妻と子供たちを麻酔で眠らせ、トルコへ密出国した。今はアンタキヤの病院に入院した妻を不眠不休で看病している。

 子供たちの「けが」は母親に比べて目立たない。だが、深刻さのレベルは変わらない。内戦で心に傷を負った少年たちは、時には手に負えない悪さをする。

 4人はアンタキヤ市内を転々とした後、フーダ・イドリースの下に身を寄せた。イドリースは昨年避難するまで、ダマスカスで臨床心理士をしていたシリア人女性だ。

 アパートの6階にある自宅で母親代わりを務めるイドリースは、少年たちが心に深い傷を負っていることに気付いた。「彼らはひどく暴力的で、おもちゃで遊ぶ代わりに壊してしまう。食べ物の扱い方も乱暴。まるで心の中の怒りを吐き出しているかのように」

 イドリースが話している間も、少年たちはけんかを繰り広げ、叫び声を上げ、部屋をはい回る。「彼らは夜もあまり眠れない」と、イドリースは付け加えた。「悪夢で目を覚ましてしまう」

子供の死体も宣伝の道具

 悪夢とは、戦車や重火器が出てくる夢のことだ。少年たちは夢の中で、大人に銃で撃たれる。時には自分が銃を持つこともある。3歳のイヤドは、イドリースが抱いていないと眠れない。最近は自分が父親を撃つ夢を見るようになったという。

 少年たちの父親と2人のおじは、反政府勢力に加わっていた。ホムスの家では戦闘や陰謀の話が盛んに飛び交い、市内では銃声や爆発音が何カ月も続いた。やがて流血の悲劇が少年たちの家族にも及び、おじの1人が何者かに頭部を撃ち抜かれて死んだ。

「僕たちはおじさんを家に連れ帰り、遺体を洗った。おじさんの子は壁や窓に頭を打ち付け、最後には窓を全部割ってしまった」と、兄弟の1人アブドゥル・アリムは振り返る。

 少年たちの母親が重傷を負う直前、長男のハカムは一家で避難していた学校の2階へ行き、別の爆発で足を負傷した。父親と病院へ行っている間に、今度は母親が大けがに見舞われたのだ。そのとき、3人の弟たちは母親と一緒だった。「子供たちは心の中に、とても強い恐怖心を抱えている」と、イドリースは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 7
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中