最新記事

ロシア

プッシー・ライオットの美女たちに反プーチン罪

プーチンを批判した女性バンドに実刑判決が下って西側各国やセレブたちの批判も頂点に達したが、やるべきことはまだまだある

2012年8月21日(火)17時02分
ダニエル・デフライア

宗教憎悪罪? 裁判所でのアリョーヒナ(右)とトロコンニコワ(左)(7月30日)  Maxim Shemetov-Reuters

 ロシアの女性パンクバンド「プッシー・ライオット」がモスクワにあるロシア正教会の大聖堂で、プーチン首相(現大統領)を批判する歌を歌ったのは今年2月のこと。モスクワ地区裁判所は8月17日、3人のメンバー(マリーナ・アリョーヒナ、ナジェージダ・トロコンニコワ、エカチェリーナ・サムツェヴィッチ)に宗教的憎悪に基づく暴徒罪で禁錮2年の実刑判決を下した。

 だが、これですべてが終わったわけではない。カラフルな覆面姿の女性グループが教会内で「聖母マリア様、プーチンを追い出してください!」と歌う映像を見れば、少なくとも5人が演奏に関与していたことがわかる。


 だが今回裁判にかけられたのは3人だけ。治安当局が残りのメンバーの素性を知っていたかどうか不明だが、当局は今も彼女たちの行方を追っている。「今も捜索が行われている」と、ロシア内相の広報官は語った。

 プッシー・ライオットの広報を務めるピオトル・ヴェルジロフはニュースサイト、グローバル・ポストに対し、抗議行動を起こしたグループには約20人の女性からなる「製作チーム」があると語った。未確認情報だが、「プーチンが革命に火をつける」と題した新曲をネットにアップしたのもこのグループかもしれない。

マドンナもスティングも立ち上がった

「公共の秩序を著しく乱した」として3人に懲役刑が下されると、欧米各国では一斉に批判の大合唱が湧き起こった。マドンナをはじめとする多くの有名人やメディアがこぞってプッシー・ライオットを支持し、プーチン政権の権力乱用を非難している。

 とはいえ、世間の関心は移ろうもの。注目の裁判のクライマックスシーンが終わった今、メディアは他の反プーチン活動家らが直面している法廷闘争にも光を当てるだろうか。たとえば人権派弁護士エフジェニ・アルヒホフの存在や、彼が弁護している11人の反体制派の苦闘について、一般市民はいまだに知らないでいる。

 いずれプッシー・ライオットの残り2人のメンバーが逮捕され、裁判で重すぎる不当判決を受けたとしよう。そのときメディアの関心が薄れていても、マドンナやスティングは彼女たちを支持して立ち上がるだろうか。

 安全保障の専門家ジョシュア・ファウストは米誌アトランティックで次のように書いている。「プッシー・ライオットの裁判が民主化に逆行するプーチン政権の実態について西側の関心を高め、弾圧を緩めるようロシア政府に圧力をかける大衆運動を広げる一助になったとは思えない。むしろ、パンクロッカーが教会での小さなコンサートごときのために刑務所に送られるという悲しい事態への怒りを、西側に引き起こした程度にみえる」

 この言葉が間違いであることを祈ろう。
 
GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中