最新記事

アフガニスタン

「遺体記念写真」が暴動を呼ばない理由

死んだタリバン兵を侮辱するような米兵の写真が暴露されても反米デモが起こらないのは、タリバンの暴虐ぶりもよく知られているからだ

2012年5月30日(水)15時01分
サミ・ユサフザイ(イスラマバード)、ロン・モロー(イスラマバード支局長)

地獄の果て アフガニスタンを守るのが米兵の任務だが Shamil Zhumatov-Reuters

 当然のことながら、アフガニスタンの人々が怒りをあらわにしている。だがその反応は、思いのほか抑制的だ。

 4月18日付の米ロサンゼルス・タイムズ紙に衝撃的な写真が掲載された。自爆したイスラム原理主義勢力タリバンの戦闘員とみられる遺体の横で、アフガニスタン駐留米軍の兵士がポーズを取っている。アフガニスタンのカルザイ大統領は強い不快感を示し、米軍は反米感情の高まりを懸念して駐留部隊の警護を強化したが、大きな暴動は起きていない。タリバンは「恥ずべき暴挙」を非難する短い声明を出すにとどまっている。

 一部のタリバン高官は怒りより不安を覚えている。タリバン内部の強硬派が、今回の写真を口実にアメリカ側との交渉に反対する恐れがあるからだ。

 国民の間で米兵への反感が高まらなかった理由は、タリバンの手も血で汚れているからだ。ほとんどのアフガン人は写真に不快感を示してはいるが、タリバンへの同情や反米デモにはつながっていない。

「遺体への侮辱は人類全体への侮辱」だが「タリバンも罪のない民間人を虐殺している」とイスラム教指導者マウルビ・アブドゥラ・アビドは言う。「過去10年間、アメリカもNATOもタリバンも、罪のない人々にひどい仕打ちをしてきた。悲劇を招いた責任はどちらにもある」

 タリバンの暴虐ぶりは米兵たちによる「記念撮影」の比ではないと、アフガン兵ジュマ・カーンは言う。「自爆テロで罪のない人々が50人は死ぬ。タリバンはアフガン兵の首をはね、息のあるうちに手足を切り落としさえする。コーラン焼却事件や米軍が民間人を殺していることには心を痛めているが、テロリストには同情しない」

 そうはいってもアメリカのイメージがさらに傷ついたことには変わりない。「タリバンかどうかに関係なく、アフガン人の遺体と記念撮影すればアフガン人の心証を害する」とパキスタンに留学中のアフガン人学生アフマド・ファリドは言う。

「あんな写真を見せられたら、アメリカに人間の価値や人権や戦争のルールを守ることを論じる資格があるとは思えない」

 写真はアフガニスタン駐留米軍の傲慢さと規律の欠如を物語っている。そんな考え方では和平に向けた取り組みの足を引っ張るだけだ。

[2012年5月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中