最新記事

ヨーロッパ

新生・独仏トップの「調和できない溝」

親密な「メルコジ」同盟時代とは正反対、フランスのオランド新大統領とドイツのメルケル首相の間には早くも隙間風が

2012年5月21日(月)18時18分
シボーン・ダウリング

冷たい視線 初の独仏首脳会談後に共同記者会見するオランド(左)とメルケル(5月15日、ベルリン) Tobias Schwarz-Reuters

 先週末、フランスの新リーダーとしてG8デビューを果たしたフランソワ・オランド大統領。しかし、ドイツのアンゲラ・メルケル首相との間には、さっそく寒い空気が漂っている。

 G8に先立ちベルリンで先週行われた初の独仏首脳会談では、メルケルはニコラ・サルコジ前大統領に示したような温かみのある態度はいっさい封印。各国報道陣を前にした共同記者会見でも、オランドが話している間は石のように無表情だった。


 両者の冷ややかな関係は、オランドが大統領に就任する前から始まっていた。選挙戦の間もメルケルはオランドと面会せず、フランス次期大統領にはサルコジを支持するとまで公言していた。対するオランドも、メルケル主導で昨年末に合意したEU財政協定の見直しを声高に訴えた。

 とはいえギリシャ危機をめぐっては、メルケルもオランドも団結して臨もうとしているようだ。ギリシャでは今月行われた総選挙後に連立交渉が決裂し、来月にも再選挙が予定されている。その結果、「反緊縮」を掲げる急進左派連合中心の政権が成立すれば、ユーロ離脱のシナリオが一層現実味を増す。

 しかしそんな緊迫した状況の中でも、オランドとメルケルの姿勢の違いばかりが
目につく。

EUで孤立を深めるメルケル

 オランドはメルケルとの会談で、EU財政協定の見直しを改めて求めた。同協定はEU加盟国に財政規律の強化を求めているが、経済成長を重視する政策を盛り込まないかぎりフランスは協定を批准しない、というのがオランドの言い分だ。「選挙中に訴えたことを今ここでも繰り返すが、私はこの協定について再交渉したい」と、オランドは報道陣に語った。

 今のところオランドは、歩み寄る気はなさようだ。6月半ばには議会選挙が控えているので、大統領選の公約をさっそく反故にしたと国民に思われては困るからだ。

 それに、EU内のムードの変化にもオランドは気づいている。今ではイタリアのマリオ・モンティ首相などの保守派をはじめ、債務削減にこだわるドイツが譲歩するのを願う首脳も出てきた。緊縮路線が経済成長を締め付けていることが日に日に明らかになるなか、メルケルはヨーロッパで孤立を深める一方だ。

 それでもメルケルは、山積する課題について姿勢を変える気配はない。オランドの選挙公約を恐れているか、と先週問われたメルケルは、冷静にこう答えた。「私はめったに恐れない。政治において、恐れは『良き助言者』にならないから」

From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中