最新記事

中南米

チャべスの癌で絶対絶命のキューバ

キューバなど中南米の左派政権を支えたベネズエラの独裁者が病に倒れれば、原油供給が滞り社会不安に直結する恐れも

2011年7月7日(木)18時39分
ニック・ミロフ

最後の雄姿? ベネズエラ国民に健在ぶりをアピールしたチャべス(7月4日) Carlos Garcia Rawlins-Reuters

 キューバで癌の手術を受けたベネズエラのウゴ・チャベス大統領が7月4日、約1カ月ぶりに母国へ戻った。キューバの首都ハバナを発つ際には、空港の滑走路でラウル・カストロ国家評議会議長に向けて「ベネズエラとキューバは同じ国だ」という言葉を贈り、友情を確かめ合った。

 その言葉通り、キューバの命運は、癌と戦うチャベスの健康状態にかかっている。ベネズエラからキューバ(と中南米諸国の左派政権)に流れる巨額の支援が今後も続くかどうかは、チャベスの体調次第なのだ。
 
 ソ連崩壊によって、キューバが慢性的な停電と経済停滞に苦しめられた時代から20年。キューバは今もベネズエラという寛大な友好国に依存して国家経済を維持している。石油需要の3分の2以上はベネズエラが格安で提供してくれる原油でまかなっているし、昨年の対ベネズエラ貿易は推定35億ドルに上った。

 56歳のチャベスは、キューバで骨盤膿瘍の手術を受けた際に「癌性細胞」が発見されたと語っているが、癌の具体的な部位や予後の見通しについては公表していない。

 スペインからの独立200周年を機にベネズエラに帰国したチャベスは、陽気でエネルギッシュだった。食事を「ガツガツ食べている」とテレビカメラの前で請け合い、ツイッターの170万人のフォロワーに向けて「神に感謝! これは復活の始まりだ」とツイートした。

停電解消はベネズエラの原油のおかげ

 一方、キューバにとっては不安の始まりだ。キューバでは革命の英雄フィデル・カストロの弟である80歳のラウルが国家財政の健全化に悪戦苦闘しつつ、自由経済への段階的移行を進めている。だがチャベスの健康不安は、キューバ経済の脆弱さをあらためて浮き彫りにした。
 
 キューバの共産党政権は今後数年間で何万人もの国営企業の従業員を解雇し、小規模な営利企業の増加を認めようとしている。キューバがこうした改革をマイペースで進められるのは、ベネズエラから様々な形で支援を受けられるおかげだ。

 病気のため、あるいは来年12月の大統領選に敗れてチャベスの時代が終わりを迎え、医療従事者中心にベネズエラで出稼ぎ労働者として働く4万人のキューバ人が帰国する事態になれば、財政は一段と厳しさを増すだろう。

 さらに深刻なのは、エネルギー供給の問題だ。ベネズエラから安定的に原油を入手できるおかげで、キューバでは90年代前半のような慢性的な停電と暴動はほとんどなくなった。キューバ人が大挙して、ボートでアメリカを目指すこともなくなった。

 当時、まだ政治権力の頂点に君臨していたフィデルは毎日のようにテレビに出演し、意志の力だけで国民を危機から救い出そうとしていた。しかし彼は今、85歳。再び国を救うには弱りすぎている。

 キューバの社会情勢は、灼熱の夏季の電力供給と密接に結びついている。キューバは過去10年間、比較的小規模な火力発電所を設置することで電力供給を安定化させてきた。燃料の一部はベネズエラ産の石油で、ここ数カ月原油価格が1バレル=100ドルを超えたときでも、キューバはベネズエラのお陰で電力の安定供給を続けることができた。

 すぐにベネズエラの原油の代わりを見つけることも難しい。キューバは既に国内油田で1日5万バレルの石油を生産し、そのほとんどを発電に使っている。スペインの石油大手レプソルは近くキューバ北部の沖合で石油採掘を始めようと計画している。だが専門家によれば、大規模な原油を掘り当てても原油を市場で流通させるまでには何年もかかる。

カストロを敬うがゆえの友好関係はどこへ

 キューバとベネズエラとの間には商業・貿易に関する数百におよぶ協定が存在するが、ベネズエラの新大統領とうまが合わないなら、こうした合意は危うくなる。キューバの人々は、フィデルを父親のように見なすチャベスがいるからこそ、こうした協定が継続されていることを理解している。

 ベネズエラの石油外交に深く依存しているのはキューバだけではない。ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領など、原油の供給不安を減らすため、ベネズエラから優先的に石油供給を受けるための機構「ペトロカリベ」に加盟する18カ国も同じだ。

 チャベス自身は健康状態が良好で、完治に向かっていると主張している。フィデルは4日、共産党機関紙のコラム「リフレクション」の中で、チャベスが「彼と彼の国を偉大な勝利に導く」ような「決戦」を開始したと書いた。

 しかし実際その勝利のカギを握っているのは、チャベスの治療を担当するキューバの癌専門医たちだ。癌の部位と進行状況は明らかにされないままだが、専門家らは癌が大腸か前立腺に存在する可能性があると推測している。進行した大腸癌は非常に危険だ。

 化学療法を行うことになれば、チャベスは再び人前から姿を消すことになる。今回のカラカスへの一時帰国は、これから始まる長期不在を前に、チャベスが部下に指示する最後の機会だったのかもしれない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア・トルコ首脳が電話会談、中東情勢について協議

ワールド

米戦闘機、イラン上空で撃墜 乗員1人救助との報道

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡「時間あれば開放できる」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中