最新記事

アルカイダ

「最凶テロの教祖」はこうして作られた

ソフトな語り口に優美な物腰──支持者を心酔させるカリスマ性の源は、テロリストとしての力量だけではなかった

2011年5月9日(月)13時18分
ロッド・ノードランド、ジェフリー・バーソレット

揺るぎない求心力 ビンラディンのカリスマ性は今もイスラム原理主義に傾倒する人々を引きつけている(パキスタン南西部クエッタ、2011年5月6日) Naseer Ahmed-Reuters

 ウサマ・ビンラディンは、AK47自動小銃を手にポーズを取るのが好きだ──もっとも、銃の扱いにはあまり慣れていないように見える。

 長身で細身のやさ男。ソフトな語り口に、女性的とさえいえる柔らかな身のこなし。彼の圧倒的なカリスマ性の源は、テロリストとしての力量だけでなく、その優美な物腰にもある。

 彼は01年、息子モハメドの結婚式で詩を披露した。米駆逐艦コールへの自爆テロ事件の4カ月後のことだ。

 「異教徒のしかばねのかけらが、ちりのように舞っていた/目にした者は歓喜し/そして心は喜びで満たされただろう」

 「殉教者」にささげられたこの詩は、新兵勧誘用のビデオに収められ、中東はもちろんパキスタンなどでも売られている。

 「わずかな装備と強い信仰心があれば、現代最強の軍事大国さえ打ち負かすことができる」と、全編100分のこのビデオで彼は語りかける。「アメリカは見かけよりずっと弱い」

裕福な家を出て兵士と共同生活

 今や自分が国際テロのシンボルとなったことに、ビンラディンは満足しているにちがいない。テロリストとしての手際もさることながら、彼の最大の才能は、自らの伝説を築いて磨き上げ、その力で人々を駆り立てる力だ。

 冷酷かつ大胆であればあるほど、彼のオーラは強まる。そして98年の米大使館爆破事件の後のように、アメリカのミサイルをかわして逃げ延びるほど、自分のカリスマ性が高まることも彼は知っている。

 ビンラディンはサウジアラビアで育った。一族にはアメリカ在住者もいるが、50人以上いる兄弟の17番目にあたるビンラディンはジッダの大学で経営学を学び、そこでイスラム原理主義に傾倒していった。

 79年のソ連のアフガニスタン侵攻で、ビンラディンは人生の目標を見つけた。最初は資金援助や建設機械の提供などを行っていたが、そのうち直接戦闘に参加するようになる。

 本誌の知るかぎり、ビンラディンはアメリカの情報当局とは直接かかわりをもたなかった。だがCIA(米中央情報局)が当時、対ソ「聖戦」に資金を提供するサウジの大富豪の出現を歓迎したのは確かだ。

 アフガニスタンで、ビンラディンは自身の伝説を築き始めた。すぐそばにソ連軍の迫撃弾が落ちたが不発だったといった話を、彼は好んでしたらしい。

 仲間の兵士は、ビンラディンの戦場での振る舞いに強い印象を受けた。「彼はカネだけでなく、自分自身をあの戦いにささげていた」と、ビンラディンを支持するあるパレスチナ人は言う。「宮殿のような家を出て、農民や兵士とともに料理をし、同じ飯を食い、一緒に塹壕を掘った。それが彼のやり方だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中