最新記事

中東革命

フランス「国境封鎖」で移民列車を阻止

イタリア経由でフランスに入ろうとするチュニジアやリビアからの移民は、責任を押し付けあう仏伊国境で立ち往生

2011年4月19日(火)17時27分

招かれざる客 イタリア国境の町ベンティミリアで列車を待つ移民(4月18日) Alessandro Garofalo-Reuters

 フランス政府は17日、北アフリカからの移民流入を防ぐため、イタリアとの国境にある鉄道を一時閉鎖した。政府によれば、足止めした列車には、移民のほかにもフランスでの抗議デモを予定していた数百人の活動家が乗車しており、彼らの入国を阻止するための措置だったという。

 イタリアはフランスに対し「国境封鎖は違法」と抗議したが、EU(欧州連合)はフランスの措置を支持した。

 イタリアからの公式な抗議によって、列車は18日に運行を再開した。AP通信によれば、フランス内務省の広報官ピエール・アンリ・ブランデは「決して......フランスとイタリアの国境を封鎖したのではない」と語った。「今回の措置はまったく『別の問題』」で、「申告されていないデモ活動」を防ぐためだったという。

 欧州委員会(EUの行政執行機関)のセシリア・マルムストローム委員は18日、フランスには列車を止める「権利があったようだ」と語った。「治安維持のための一時的な措置だ。今は通常どおり運行している」

最前線イタリアにのしかかる負担

 今年に入り、北アフリカで革命の嵐が吹き荒れてから、主にチュニジアやリビアからヨーロッパ大陸を目指してくる大量の人々。EU内では彼らのことを、政治亡命のための難民というより経済的な豊かさを求める移民だという見方が強い。

 地中海で移民流入の最前線に立つイタリアはEU加盟国、特にフランスが移民の受け入れに対して相応の負担をしていないと非難している。移民の多くは、既に多くのチュニジア系移民が暮らすフランスを目指しているのだ。

 イタリアは16日、移民を他国へも分散させるために、EU25カ国内での自由越境を認めたシェンゲン協定の許可証を、独断で発行し始めた。

 この翌日、フランスがイタリア北西部のベンティミリアとフランス南部ニッツァを結ぶ列車の運行を一時停止した。チュニジアからの移民と活動家たちがフランスに向けて「尊厳の列車」に乗車する計画を発表したからだ。活動家らは移民受け入れに後ろ向きなフランス政府に抗議しようとしていた。

吹き飛んだEU自由越境の理念

 イタリアのフランコ・フラティニ外相は、列車に乗っている移民はフランス入国に必要な書類を所持していると語り、フランス政府による鉄道封鎖に「強く抗議」するよう駐フランス伊大使に伝えた。大使はフランスの措置に対し、「違法であり明らかにEUの原則に反している」と指摘した。

 イタリアはフランスの措置は、圏内の自由な移動を保障するEUの規定に違反していると非難。活動家たちの存在は「最も往来が多い国境の1つを封鎖するのに十分な理由」にならないとした。

 EUのマルムストロームは、「一時的」な運行停止は「治安維持」のためだと説明するフランスからの書簡を受け取ったと言う。「これはシェンゲン協定の倫理規定に含まれない事象だろう」

 さらにEUの報道官は、イタリアによって一時的な居住許可を認められた移民であっても、フランスには入国を許可する義務はないと語った。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、26─30年に粗鋼生産量抑制 違法な能力拡大

ビジネス

26年度予算案、過大とは言えない 強い経済実現と財

ビジネス

中国国有銀行がドル買い、元が1ドル=7元に迫る

ワールド

フィリピン、今年の経常赤字をGDP比3.2%と予測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中