最新記事

中東

リビア危機でロシア「泣き笑い」のワケ

原油価格の高騰でボロ儲けする一方で、巨額の武器輸出の契約や軍基地建設計画は反故になりそう

2011年4月18日(月)15時11分
山田敏弘(本誌記者)

吹き飛んだ商機 ロシアは20億ドル相当の武器契約を結ぶことでリビア政府と合意していたが(破壊されたリビア政府軍の兵器、3月21日) Suhaib Salem-Reuters

 リビアをはじめ、不安定な情勢が続く中東・北アフリカ。この地域には産油国が多いことから供給不安が強まり、世界的に原油価格が高騰している。しかしなかには、不安どころか笑いが止まらない国もある。ロシアだ。

 今年初めから、ロシア産の原油価格は24%上昇。ロシアのクドリン財務相によれば、国家財政の補填用に原油収入の一部を積み立てている基金が、このままいけば昨年末の409億ドルが、今年末までに500億ドルに達する見込みだ。

 ロシア政府首脳は笑いが止まらないかもしれないが、いい話ばかりではない。アラブ諸国、とりわけリビアの混乱でロシアが失うものは実はかなり大きい。

 ロシアのメドベージェフ大統領は3月、リビアへの武器輸出を禁止する大統領令に署名した。2月末に国連安保理が採択したリビア制裁決議を受けた措置だ。

アラブ圏での重要な「足場」を失う

 両国は今回の騒乱前に、20億ドル相当の武器契約を結ぶことで合意していた。軍用機や対空ミサイルなど18億ドル以上の売却契約も進められていたという。今回の武器輸出の禁止でロシアが被る損失は約40億ドルとも言われている。

 国連安保理で、ロシアはリビアへの武器禁輸制裁を支持せざるを得なかった。「大国の責任として拒否権は行使できなかったのだろう」と、米シンクタンクの大西洋協議会アフリカ部門の責任者J・ピーター・ファムは言う。「ロシアは武器輸出全体の5分の1を失うことになる。大きな収入源がなくなる」

 このままリビアで騒乱が長引いても、あるいはカダフィ政権が崩壊しても、武器売却に関わるすべての契約が履行されない可能性が高い。ロシアのセルジュコフ国防相は「危機感を募らせている。契約と合意が実行されることを望む」と語っていた。

 それだけではない。リビアの最高指導者カダフィ大佐は08年、ロシアによる海軍基地建設を受け入れると申し出ていた。中東・北アフリカで欧米に対抗して影響力を維持しようとしてきたロシアにとって、基地建設に前向きだったリビアを失うのは痛手だ。

 動乱の続くアラブ諸国の中でロシアから武器を購入している国は、リビア以外にもある。同じく騒乱が起きたエジプトやイエメン、アルジェリアなどだ。ロシアはこの地域に向けた武器売却で100億ドルの損失を出すとも指摘されている。

 今回の中東革命で最も損害を被った国は、実はロシアなのかもしれない。

[2011年3月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中