最新記事

情報開示

風評被害はなぜ起きたのか

日本産農産物の輸入制限など各国に広がる過剰反応。その原因は日本政府のお粗末な情報提供にもある

2011年4月13日(水)10時45分
藤田岳人(本誌記者)、横田 孝(本誌編集長/国際版東京特派員)

恐怖の「源泉」 福島第一原発2号機から流出する放射性物質を含んだ汚染水(4月2日) Reuters

 福島第一原子力発電所での事故発生から1カ月余りがたったが、「出口」はまったく見えない。それどころか放射能汚染の風評被害が世界に広まり続け、欧州やアジア諸国で日本産の農産物や海産物に対する放射能検査の強化や輸入制限が実施されている。

 警戒対象になっているのは食品だけではない。ヨーロッパ最大規模のオランダ・ロッテルダム港は、事故後に日本を出航した全船舶に対して放射能検査を実施すると発表。第2の規模を持つドイツ・ハンブルク港も貨物の検査・隔離について協議している。

 過剰とも言える反応もある。先月末には中国のアモイ港で日本の貨物船が「異常な放射線量」を理由に入港を拒否された。この船は福島第一原発付近の海域を航行していたが、検出された1時間当たりの放射線量は最大でもわずか3・5マイクロシーベルトでしかなかった。日本から輸入されるすべての消費財に放射能検査を行うと発表したサウジアラビアのような国もある。

 さらに、福島第一原発事故には国際機関による介入が必要だという声まで噴出している。欧州復興開発銀行のジャック・アタリ元総裁は「日本の官民当局のプライドと傲慢さ、透明性の欠如と秘密主義が、国内外の目から被害の実態を隠蔽させることにつながった」と主張。外国が、日本の官僚機構などに対して持っているステレオタイプ的な言説の上に成り立った指摘だ。

 残念ながら、風評被害が拡大している理由はこんな単純なものではない。政府や東京電力の透明性に大きな問題があったわけでもない。
 
 むしろ、原因は政府や東電が「情報発信」という概念を十分に理解していなかったことにある。...本文続く

──ここから先は4月13日発売の『ニューズウィーク日本版』 2011年4月20日号をご覧ください。
<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

今週のカバー特集は
「3.11原発事故の波紋」
──チェルノブイリと同じレベル7に評価が上がり、出口が見えない福島第一原発事故が世界と日本に突きつける課題とは?世界に広がる風評被害や原発国有化について日本メディアと違う角度から探ります!
■日本人を襲う震災トラウマ
■風評被害はなぜ起きたのか
■原発国有化で悲劇は防げるか
■インド流「デタラメ」原発の悪夢
■止まらない東電バッシング

<最新号の目次はこちら

[2011年4月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウォラーFRB理事、年内0.25%利下げ想定 必要

ワールド

イスラエル、ベイルート空爆でヒズボラ指揮官を殺害 

ビジネス

AI、短期的にインフレ押し上げ要因に=カナダ中銀総

ワールド

ウクライナ、当局者のテレグラム使用禁止 ロシアのア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 2
    NewJeans所属事務所ミン・ヒジン前代表めぐりK-POPファンの対立深まる? 
  • 3
    他人に流されない、言語力、感情の整理...「コミュニケーション能力」を向上させるイチオシ書を一挙紹介
  • 4
    「ゾワッとする瞬間...」大ヘビが小ヘビ2匹を吐き出…
  • 5
    口の中で困惑する姿が...ザトウクジラが「丸呑み」し…
  • 6
    ヒズボラの無線機同時爆発の黒幕とみられるイスラエ…
  • 7
    トランプを再び米大統領にするのは選挙戦を撤退した…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がん…
  • 10
    「テレビから消えた芸人」ウーマン村本がパックンに…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 3
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 4
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 5
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 6
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 7
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 8
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 9
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 10
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 9
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...…
  • 10
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_i…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中