最新記事

中国

アメリカも動かす中国パンダの外交力

ワシントンのパンダ2頭の貸与期限の延長が決定。他のイメージ戦略が失敗に終わるなか、愛くるしい魅力で嫌中ムードを吹き飛ばせるか

2011年2月28日(月)12時29分
メリンダ・リウ(北京支局長)

最強兵器 スミソニアン国立動物園のティエンティエンは2015年までアメリカで暮らすことになった Reuters

 1月の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の訪米に合わせ、中国政府のメディア対策専門家たちは、アメリカに友好的なイメージを売り込もうとPRキャンペーンに知恵を絞った。

 ニューヨークのタイムズスクエアの大型スクリーンで、2月半ばまでPR映像を流すのもその一環。著名人や一般市民ら笑顔の中国人が大勢出演する。

 しかし、このイメージ戦略は不発に終わりそうだ。あまりに退屈な映像にアメリカ人はうんざりし、「中国が心底嫌いに」なるだろうと、ある中国人ブロガーは予想している。

「中国嫌い」とは言わないまでも、中国経済が大躍進を続けるなか、アメリカ人が警戒感を強めているのは確か。人民元を意図的に安くし、アメリカの雇用を奪い、厳格な子育てで若い世代を鍛える中国は脅威の存在だ。

ニクソン政権時代にも絶大な効果

 とはいえ、中国にも世界中の人々に親しまれるシンボルがある。パンダだ。パンダはアメリカでも大人気。胡の訪米中、地味ながら米中間である交渉がまとまった。ワシントンの動物園に貸与されているつがいのパンダ、メイシアンとティエンティエンの貸与期限が延長されたのだ。10年前に海を渡ってきたこの2頭は、15年までアメリカで暮らすことになる。

 北朝鮮の核開発問題や人民元の切り上げに比べれば、パンダの貸与は些細な問題かもしれない。しかし、ソフトパワー外交を目指す中国当局にとって、愛くるしいパンダは最強の武器だ。

 米中国交回復につながった72年のニクソン訪中時にも、中国当局は2頭のパンダ、リンリンとシンシンをアメリカに贈ると約束。この2頭のおかげでアメリカの世論がどっと親中国に傾いたのは、米政府にとっても想定外だった。

 動物園がインターネットを通じて流しているメイシアンとティエンティエンのライブ映像「パンダ・カム」は今も大人気で、日々アクセスが殺到している。この2頭の間には05年にタイシャンというオスの赤ちゃんが生まれた。タイシャンは2010年に、中国のパンダ繁殖計画のために四川省成都の研究基地に返還され、アメリカじゅうのファンが別れに涙した。

 メイシアンとティエンティエンの貸与期限延長で、2頭目の「アメリカ生まれのパンダ」への期待も高まっている。そうなれば、米中の友好ムードは一気に高まるはず。ぎくしゃくしがちな米中関係だが、パンダ外交は功を奏しそうだ。

[2011年2月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中