最新記事

東南アジア

ビルマ「インチキ選挙」は内戦の序章

2010年11月9日(火)17時25分
パトリック・ウィン

 アジア諸国の大半は選挙結果を承認する見通しだが、アメリカとイギリス、EU(欧州連合)は非難声明を発表。オーストラリアを訪問中のヒラリー・クリントン米国務長官は、ビルマの総選挙によって「軍事政権の不正が再び露呈した」と語った。「胸が痛む。ビルマの人々はもっと恵まれた状況に値する」

 新議会では4分の1の議席が軍人に割り当てられており、彼らが主要ポストを独占する見込みだ。しかも、立候補者の多くは元軍人。軍部は非常事態宣言を出して議会を閉鎖し、国を管理下に置く権利を有する。

少数民族が結集すれば相当な戦力に

 軍事政権に長年虐げられてきた少数民族は、総選挙後に軍部によるゲリラ掃討作戦が展開されるのではないかと警戒している。11月上旬には6つの武装勢力の間で、軍部が新たな掃討作戦に乗り出した場合には協力して対抗するという合意が交わされた。実際、亡命ビルマ人がタイで創刊した雑誌『イラワジ川』によれば、ビルマ空軍は最近、ロシアのMi24攻撃ヘリを最大50台購入したという。

「武装勢力同士の連携が目立つ」と、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル・アジア太平洋部のドナ・ゲスト副部長は指摘する。「軍部が正統性を主張する新政権」は、武装勢力を弾圧する「必要性が増したと感じるかもしれない」。

 少数民族の武装勢力には有能な戦士が揃っており、強力な戦力になる可能性を秘めていると、抑圧された民族を支援する非営利組織ワールドワイド・インパクト・ナウの会長を務める元米軍大佐ティム・ハイネマンは言う。「彼らの力を結集させれば相当の戦力となり、多くの問題を引き起こせる」

 もっとも、45万人の兵士を擁する政府軍の規模には到底及ばない。「軍部は(武装勢力の)指導者を暗殺するかもしれない。そうなれば、武装勢力は頭を切り落とされたニワトリのように無力だ」

 総選挙はビルマが変わる兆しだという楽観論もないわけではないが、少数民族にとってはさらなる暴力の予兆でしかない。「選挙なんて関係ない」と、ハイネマンは言う。「売春宿の上にハリボテの教会を建てるようなものだ」

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中