最新記事

W杯

オランダに負けてほしいワケ

「トータルフットボール」戦術の伝統を捨てたオレンジ軍団より華麗なパスをつなぐスペインの優勝を願う

2010年7月9日(金)18時09分
ブライアン・フィリップス

ロッベン頼み 準決勝のウルグアイ戦、後半28分にヘディングで決勝ゴールを決めたロッベン(右、7月6日) Kai Pfaffenbach-Reuters

 すべてのサッカーライターと同じく、私もノスタルジックな気持ちにひたってしまう傾向がある。そしてすべてのサッカーライターと同じく、私もオランダ代表を愛している。

 7月11日、サッカーワールドカップ(W杯)の決勝戦でスペインと激突するオランダは、サッカー界で最も華麗なる敗者だ。オランダ代表といえば、かつて自分たちの美しいプレーを追い求めて散った、あの世代の選手たちを思わずにはいられない。

 それは70年代。ヨハン・クライフを中心に据えたチームは、スリリングなプレースタイルで戦術的革命をもたらしたにもかかわらず、2大会連続で決勝で負けた。しかも記憶に残る、衝撃的なかたちで。

 こうしてオランダ代表は「退屈な勝利より美しい敗北」というロマンを求めるサッカーファンにとってのアイコンとなった。一方でこれは、普通に勝利して優勝トロフィーを母国に持ち帰りたいチームにとっては厄介な伝説だ。それでも今年のオランダ代表はこの呪縛から解き放たれるべく奮闘し、何百万人ものファンが彼らの優勝に夢を託している。

 なのに私は個人的に、彼らに敗北を味わってほしいと願わずにはいられない。

「トータルフットボール」で始まったオランダサッカーの伝説は宿命的な終わりを迎えた。トータルフットボールとは、ポジションにこだわらず全員攻撃・全員守備で戦うスタイルで、これが70年代の代表チームが生んだ戦術だ。

 オランダはもう何年もトータルフットボールで戦っていない。現在の代表チームは、むしろこれに反するシステムで戦っている。だが彼らがどんなスタイルを採用しようと、そのプレーに注がれる視線には常にオランダ伝統のトータルフットボールがついてまわる。

 トータルフットボールは、クライフの型破りなプレースタイルを生かすために考案された、アグレッシブで自由が利く戦術だ。クライフはセンターフォワードという自身のポジションから離れて動き回るスタイルを好み、チームは彼の動きに合わせて素早く陣形を立て直していった。

 そのためトータルフットボールでは、流動的なポジション交換や、空いたスペースへの飛び込み、迅速なフォーメーションの調整が強調される。敵にスペースを与えないためにディフェンスのバックラインを上げて、オフサイドトラップで相手のチャンスを潰す。執拗な攻撃的スタイルは、見る者をワクワクさせただけでなく、チームをあと一歩で世界王者のところまで導いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中