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南アフリカ

ワールドカップに蹴り出された人々

2010年7月1日(木)15時09分
クリストファー・ワース

 ブラジルは新興国の中でも民主化の進んだ国であり、スラムの住民の権利を認める寛容な伝統もある。そのブラジルでさえ、14年のW杯と16年の五輪開催を控え、35のスラムが再開発の対象となっているという。

 ロルニクによると、IOC(国際オリンピック委員会)は国連の調査に協力し、強制退去の防止を招致の条件に盛り込むことを検討すると約束した。国連はFIFAにも情報提供を求めてきたが、いまだに協力を得られていないという。FIFAは今年のW杯の「開催都市に一部地区の『浄化』などは一切求めていない」としているが、スラムの強制撤去を防ぐために何らかの手を打ったかどうかは明らかにしていない。

 ケープタウンのジョー・スロボ地区に暮らすノンカバ・ルジャラジャラ(64)らのスラム住民にとって、W杯は生活破壊の元凶でしかない。ルジャラジャラはアパルトヘイト廃絶後、未来への希望と誇りに満ちていた時期に、この地区に掘っ立て小屋を建てて暮らし始めた。それから16年。世界中から集まる人々に、今の自分の暮らしを見てほしいと言う。「いまだに食うや食わずの生活さ」

 W杯で訪れる観戦客のうち何人が、この国の指導層が見せたい姿ではなく、この国の現実に目を向けるだろうか。  

[2010年6月16日号掲載]

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