最新記事

アフガニスタン

「楽勝」アフガン大統領選で不正の愚

合法的に当選できたはずの選挙で現職カルザイ陣営に不正疑惑が浮上、大統領が大恥をさらした

2009年10月19日(月)12時51分
ロン・モロー(ニューデリー支局長)

 アフガニスタンで8月20日に実施された大統領選で現職ハミド・カルザイの不正疑惑が持ち上がると、アフガニスタン政府と同盟国との関係はたちまち、ぎくしゃくし始めた。

 オバマ米政権はカルザイに勝利宣言しないよう忠告。国連が後ろ盾になっている不服審査委員会(ECC)は一部の票について再集計を指示。より良い統治を求め、公正な選挙を期待していた国民は失望を隠せない。

 勝利を手にしたいあまりに不正に走った大統領候補はこれまでにもいた。だが解せないのは、そんな手段に出なくても合法的に当選できたはずのカルザイがなぜ不正に走ったのか、だ。

 カルザイ主導で行われたのか、熱狂的な支持者の仕業なのかは分からない。ずっとこのまま闇に葬られる可能性もある。いずれにせよ、ECCや市民らの報告によれば、カルザイのために大規模な票の捏造が行われたのは確からしい。

 州知事や地方長官、警察長官や彼らと関係の深い軍閥に至るまで、カルザイを支持する地方の役人が、票の水増しや脅迫などの不正行為に関与したとみられている。

 特に国内最大の民族パシュトゥン人が多い南部と東部での不正が目立つ。だがパシュトゥン人のカルザイは、こうした地域では何もしなくても勝ったはずだ。

 ECCには2500件を超える不正の申し立てが寄せられた。このうちの約700件が選挙結果を左右したとみられる。

 だから開票結果に驚きはなかった。カルザイ寄りといわれる大統領選挙実施機関の独立選挙委員会は9月8日、カルザイの圧倒的な勝利を宣言。開票率92%の時点で、カルザイの得票率は54%(04年に行われた同国初の大統領選で得た55%をわずかに下回っただけ)。次点のアブドラ・アブドラ前外相は28%にとどまった。

選挙前の支持率は40%以上あった

 ECCはすぐに調査の結果「不正の明白な証拠」が見つかったと発表。有権者登録の数よりも投票数が多かった投票所で部分的に再集計を行うよう指示した。ECCは既に不正票20万を無効にしたことも明らかにした。事態を収拾し、勝者を発表するまでには数週間かかるという。

 決選投票にもつれ込まずに済む過半数をカルザイが軽々と獲得。この結果を疑う理由は、州や地域レベルで不正の報告が相次いだからだけではない。

 カルザイ人気に陰りが見えているのは多くのアフガニスタン市民が認めるところ。今の彼は5年前とは異なり、簡単に勝利できるほど新鮮で有望な人気者ではない。前回選挙が行われた5年前、国民はこの国の将来に大きな期待を抱いていた。人々はカルザイを、国際社会から支援を引き出し、国に安定と発展をもたらしてくれる唯一の人物とみていた。

 しかし大統領就任後、カルザイの政治家としての運命は急激に傾いていく。人々は(無能とは言わないまでも)腐敗にまみれ、公約を実現できない政府を非難し、カルザイへの支持をやめた。

 だが国民の大半は結局、長所も短所も織り込んでカルザイに投票しただろう。民族や地域ごとに分裂した国をまとめられるのは彼しかいないと考えて。米共和党系の民間団体「国際共和研究所」が選挙前7月に行った世論調査では、カルザイの支持率は44%で、アブドラの26%を上回っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中