最新記事

リビア

カダフィ訪米で喜ぶ人、怒る人

戦略的には前進でも、元テロ国家との関係改善を許せないアメリカ人はまだ多い

2009年8月20日(木)15時03分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

 リビアの最高指導者カダフィは9月、ニューヨークで開かれる国連総会で演説するために初めてアメリカを訪れる予定だ。アメリカとリビアの関係正常化は、これで一気に加速するだろう。

 しかし、ニューヨークの治安当局にとっては悩みのタネが増えた。カダフィは外国訪問の際に遊牧民が使う巨大テントを持参するのが恒例となっており、そのテントをセントラルパークに設営したいとの問い合わせがリビア政府からあったという。

 カダフィの訪米予定に怒りを隠せないのが、88年にスコットランド上空で起きたパンアメリカン航空機爆破事件(ロッカビー事件)の遺族たちだ。

 米政府はリビア政府の関与を批判しており、実行犯とされたアブデル・バセト・アルメグラヒは現在もスコットランドの刑務所に服役中だ。しかし末期の前立腺癌を理由にスコットランド当局が釈放を検討しており、遺族の怒りの火に油を注いでいる。

 アメリカとリビアの外交関係に雪解けが訪れたのは、ブッシュ大統領時代の03年のこと。カダフィが核・化学兵器の開発計画を放棄すると表明したのを受けて、アメリカは対リビア制裁を解除した。

 同国とより緊密な関係を育んでいくという方針は、オバマ大統領にも受け継がれている。

アルカイダと戦う軍事協力が狙い

 7月のG8(主要8カ国)首脳会議でオバマがカダフィと握手を交わした後、国務省近東局のジェフリー・フェルトマン国務次官補代理がリビアを訪問。アメリカはアフリカ北部で国際テロ組織アルカイダと戦うために「より強力な」軍事協力を求めていると表明した(武器売却を含むアメリカとの軍事協力の拡大こそ、カダフィ政権の狙いだ。同政権は08年、共和党のボブ・リビングストン元下院議長が所有するロビー企業と年間240万ドルで契約を結んでいる)。

 これに加えて、米5大石油企業が「リビアとの関係強化」のために創設した米リビア商業組合の事務局長を務めていたデービッド・ゴールドウィンが最近、国務省のエネルギー問題担当コーディネーターに任命されている(ゴールドウィンはロビイスト登録をしておらず、ロビイストが公職に就くことを禁止する対象にはならなかったようだ)。

 国務省のある高官はリビアが「模範的政府」でないことを認める一方、「戦略的要衝」にあり、核を放棄した同国との関係改善は筋が通っていると主張。「リビアをさらに建設的な方向に導くチャンス」であり、オバマ政権はロッカビー事件の遺族を見捨てたわけではないと強調する。

 クリントン国務長官とホルダー司法長官はスコットランドの司法相に電話をかけて、アルメグラヒ受刑囚は「今いる場所」にとどまるべきだと進言した。駐米リビア大使館はこの問題についてコメントを拒否している。

[2009年8月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 5
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 6
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 7
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 10
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中