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アメリカが育てた蛇頭の密航ビジネス

2009年7月21日(火)18時13分
アンドルー・バスト

究極的には人間もただの荷物

 92年、蛇頭の偽造書類の入手元だったタイのバンコク空港で取締りが強化されると、密入国の手段が船舶に切り替えられた。オンボロ船の中には、100の船室に人間をぎっしり詰め込んだものもあった。

 航路は非常に複雑だった。FBI(米連邦捜査局)が追跡したある移住者グループは、福建省の省都、福州を出発し、香港、バンコク、クアラルンプール、シンガポール、ドバイ、フランクフルトを経てワシントンに着いた。

 密入国の悲惨な状況について、「蛇頭は究極的には人間を貨物同然に扱っていた」とキーフは言う。国際取引が行われる多くの一般品物と同じく、海上輸送では長い期間アメリカの当局者の目を逃れることができた。

 結局ピンは逮捕され、05年にマンハッタン南部の裁判所に姿を現した。キーフは「この場所は皮肉だった」と指摘する。裁判所は、彼女が帝国を指揮したチャイナタウンの目と鼻の先だったからだ。

 キーフは、許しがたく痛ましいアメリカ政府のある失敗に光を当てる。それは、アメリカで暮らしたいと渇望する人々の絶え間ない流入に対する、現実的で機能的な政策を立案できなかったことの悲劇だ。

 政策がなければ、移民がアメリカを目指す方法は「市場」に委ねられる。90年代がそうだったように、現在でもそうであるように、そして『ザ・スネイクヘッド』で描かれるように、市場にモラルはない。

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