最新記事

核開発

北朝鮮は孤立していない

先進国の非難も空しく、世界には北朝鮮と利害が一致する頼もしい仲間がいる

2009年7月9日(木)14時57分
ジーグフリード・ヘッカー(ロスアラモス国立研究所元所長)

イラン・コネクション アハマディネジャド大統領は金正日の味方? Damir Sagolj-Reuters

北朝鮮は5月25日に地下核実験を実施。世界中から非難の声が上がるなか、それをあざ笑うかのように、その後も次々と短距離ミサイルの発射実験を行っている。

 これより先、北朝鮮は4月5日に長距離弾道ミサイルを発射。国連安全保障理事会がこれを非難する議長声明を採択すると、6カ国協議から離脱し、寧辺の核施設を再稼働させるとともに、核実験や大陸間弾道ミサイル開発を続ける意向を明らかにした。

 金正日(キム・ジョンイル)政権は挑発行為を繰り返し、緊張を高めようとしているようだ。この事態は国際社会にとってどの程度の脅威なのか? 北朝鮮の核開発能力は実際にはどの程度なのか?

 北朝鮮による核兵器とミサイルの実験には十分に警戒する必要がある。よく練られた計画の下で兵器の性能は確実に向上している。それは私が2月に訪朝した際の北朝鮮当局者の態度からも明らかだった。その時点で寧辺の核施設の無能力化は既に後退していた。

 その後、多段式ロケットを発射し、6カ国協議から離脱。核兵器のレベルを質量共に向上させることで「核抑止力」を強化しようとしている。

格段に進歩した2度目の核実験

 だが、実験そのものより憂慮すべきことがある。核兵器とミサイルの開発分野で、北朝鮮とイランの協力関係が拡大している点だ。両国の技術は得意分野がずれているので、互いに補い合える。過去の経緯からみて外交面での利害も一致している。

 北朝鮮は07年7月に閉鎖した寧辺の核施設を先月に再稼働。現在は再処理を再開し、使用済み燃料棒から8キロ程度のプルトニウムを抽出する作業を始めた。寧辺での再処理が完了するまでには4~6カ月かかりそうだが、今後のプルトニウム抽出のめどが立ったことで今回の核実験が可能になった。追加しなければ、北朝鮮が保有するプルトニウム量は4~8個の核爆弾を製造できるだけの26~50キロ程度だった。

 核兵器の小型化技術もレベルが低いとみられている。06年に行った最初の核実験は成功とは言えなかった。実験開始の数時間前に中国に事前通告された実験規模は4キロトンだったが、実際の爆発規模は1キロトンにも満たなかった(長崎に投下された原爆は21キロトン)。当初はより大規模な実験を行う予定だったが、核実験用トンネルの大規模な破損を避けるために目標規模を4キロトンに縮小したらしい。

 だが、今回の実験は格段に進歩している。最新計器による地震観測と実施場所の地質データから割り出した規模は約2~4キロトン。この成功で北朝鮮は核開発への自信を強めるだろう。ミサイルに搭載可能な弾頭の小型化へ大きく前進した可能性もある。

 ただし、核兵器保有量を増やすにはプルトニウムの在庫を増やさねばならず、完璧な核兵器搭載ミサイルを仕上げるにはさらに実験を重ねる必要がある。これからも、今回のような核実験やミサイル発射実験は続きそうだ。

 当分、北朝鮮の核開発は限られたプルトニウムの量で思うに任せないだろう。プルトニウムを生産するには寧辺の原子炉を再稼働させる必要がある。原子炉用の燃料を用意したり、6カ国協議での合意の履行を印象付けるために08年6月に自ら破壊した冷却塔を再建するには半年かかりそうだ。

 いったん施設が稼働し始めれば、今後10年ほどは毎年、核爆弾1個に必要な約6キロのプルトニウムを生産できるだろう。だが、現在の北朝鮮には生産能力をこれ以上引き上げる技術はない。

補完関係にある北とイランの技術

 自前での軽水炉発電所の建設はプルトニウム生産とはあまり関係ない。だが濃縮ウランを燃料とする軽水炉建設に動きだせば、濃縮ウランを使った核開発に対する熱意のほどが分かる。それでもウランから核爆弾を製造するまでには何年もかかるだろう。

 だが、北朝鮮がこうした限界を克服しつつ、核保有をもくろむ別の国を支援する恐ろしいシナリオが存在する──イランとの連携だ。

 北朝鮮にはウラン濃縮に必要な遠心分離機や技術が不足しているが、イランにはそれがある。北朝鮮にはウラン鉱石からウランを分離・精製するノウハウがあるが、イランにはそれが欠けている。イランが欲しい核実験データもプルトニウム生産技術も北朝鮮は持っている。

 実際、北朝鮮はイランのミサイル開発に関わっている。急速にミサイル技術を向上させつつあるイランと、長距離ロケットの発射実験を行った北朝鮮──協力すれば互いに得るものがあるはずだ。

 核とミサイルの開発についての両国の連携を阻止しなければ、北東アジアと中東地域の安定が脅かされかねない。北朝鮮は、シリアが極秘で進めていた原子炉建設にも関与していた。北朝鮮がミサイル技術でイランとの連携を深めている今、両国に対する警戒を怠ってはならない。

 核開発に関する限り、北朝鮮は「孤立」などしていないのだ。


Reprinted with premission from "The Argument" , 03/06/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

[2009年6月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税の影響を評価するのは時期尚早=FRB金融政策報

ビジネス

米株式ファンドから大幅に資金流出 中東緊迫化と関税

ビジネス

フィラデルフィア連銀製造業指数、3カ月連続マイナス

ワールド

IAEA事務局長「最大限の自制を」、イラン核施設へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    「巨大キノコ雲」が空を覆う瞬間...レウォトビ火山の…
  • 9
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中